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魔术师-殺人第三(2)

时间: 2023-09-20    进入日语论坛
核心提示: 云い争っている内に車はいつか玉村邸の長いコンクリート塀(べい)に添って走っていた。「すると、今日は5という数字が現われる
(单词翻译:双击或拖选)

 云い争っている内に車はいつか玉村邸の長いコンクリート(べい)に添って走っていた。
「すると、今日は5という数字が現われる勘定だね。ハハハハハ、お前はそれを信じている様だね」
 車は門前に着いて、グルッと方向転換をした。門の脇のコンクリート塀に、ヘッドライトが幻燈の様な円光を投げた。
「僕は殆どそれを信じています。殆ど……」
 二郎はそこまで云ってハッと息を呑んだ。
「君、車を動かしちゃいけない。そのままじっとしているんだ」彼はまるで違った声になって、叫ぶ様に云った。「お父さん。ごらんなさい。あれを、あれを」
 見よ、塀に写し出されたヘッドライトの円光の中に、まるで検微鏡(けんびきょう)で覗いた微虫(びちゅう)(むれ)かなんぞの様に、ボンヤリと、それ故に一層不気味に5という数字が現われているではないか。
 幻燈文字はエンジンの響きにつれて、塀の上で微動している。ヘッドライトのガラスに(すみ)で書かれたものだ。それが恐ろしく拡大されて塀に写ったのだ。
 偶然であったか、故意であったか、丁度そこへ音吉爺さんが出迎えに出て来た。彼も円光の中の数字を見た。そして、「オヤッ」と一種異様の叫声を立てた。
「これは誰が書いたんだ。お前達か」
 善太郎が激しい声で運転手を叱りつけた。
「ちっとも存じませんでした。いつの間にこんなものを書きやがったんだろう」
 運転手も小首を傾けるばかりだ。恐らく、東京の店の前に停車している間に、何者かが手早く書込んだものに相違ない。
 流石の玉村氏も、この不気味な幻燈を見ては、もう二郎の臆病を笑う訳には行かなかった。この出来事が家内の晩餐(ばんさん)の席の話題にも上り、雇人達にも知れ渡った。玉村氏は之を波越警部にも伝え、所管署からの見張りの刑事を増して貰う交渉もした。
 今や玉村邸は、不気味な化物屋敷であった。家内の人々はお互の足音にも、ビクッとして聞耳(ききみみ)を立てる程におびえていた。
 日が暮れぬ先から門を閉め、方々の戸締りを固め、書生は交代で寝ずの番をするし、表門裏門には私服刑事の立番だ。これではいかな魔法使いでも、忍び入る隙はあるまいと思われた。
 だが、一目下りの怪数字は、相も変らず、毎日毎日邸内のどこかに現われる。その一々を記しては退屈だから凡て(はぶ)くが、毎朝妙子さんの飲む牛乳の(びん)に、墨黒々と4の字が書いてあったかと思うと、次の日は二郎青年の書斎の窓から吹き込んだ一葉の枯葉に、3の字が現われているといった調子で、2と進み、遂に1となった。それが十一月二十九日のことだ。若しこれをあと一日という通知状だとすれば、翌三十日は、(いよいよ)その当日である。
 第一は福田氏、第二は明智小五郎、次いで怪魔の兇刃に倒れるものは、(そもそ)何人(なんぴと)であるか、賊の予告が漠然と日附を示すのみで、その人を指名しない。不気味な曖昧(あいまい)さが恐怖を幾倍した。
 その当日、玉村邸の人々は、誰も外出しないで、朝から一間に集って、恐怖をまぎらす為の遊戯や雑談をしていた。主人の善太郎も店を休んだ上、屈強の店員五六名を呼んで、いやが上にも厳重な防備を固めた。
 ところが予期に反して何の変哲もなく日が暮れ、八時九時と夜が更けて行っても、邸内に別状はなかった。ナアンだ思った程でもない。この厳重な固めには、流石の魔法使いも策の施し様がないじゃないか。と、人々はやや安堵を感じ始めた。
 十時には家内一同寝室に退いた。無論寝室の扉に締りをすることは忘れなかったし、玄関の書生部屋には寝ずの番が二人がんばっていた。その外には、表門裏門の刑事だ。
 二郎青年もベッドに這入ったが、なかなか睡気(ねむけ)を催さぬ。(ほか)の人々は安心しても、彼丈けは怪物の神変不思議な手並(てなみ)を、まざまざと見せつけられていたからだ。
 遙か頭の上の、例の不気味な時計塔から、葬鐘(そうしょう)の様な十一点鐘が聞えて来た。それから三十分もたったであろうか、二郎はふと妙な音に気づいた。
 聞える。確かに聞えている。空耳ではない。あの恐ろしい(フリュート)()だ。福田氏の惨殺された時と同じ節廻しだ。
 二郎青年は用意のピストルを握りしめて、ベッドを飛びおりた。
 彼は(フリュート)の音は、已に兇行が行われたか、或は正に行われんとしているか、いずれにもせよ、一瞬の猶予(ゆうよ)もならぬ、きわどい場合であることを知っていた。家人を起し廻っている暇はない。彼は矢庭(やにわ)に叫び出した。訳の分らぬ雀でも追う様なわめき声を発しながら、(フリュート)の音に向って突進した。洋館を貫く長い廊下を走った。走りながら考えると、それはどうやら妹の妙子の部屋らしい。「アア第三の犠牲者は妹だったのか」咄嗟の場合、頭の中で合点(がてん)が行った。
 と見る、妙子の寝室のドアの前に(うごめ)く黒怪物。二郎はハッと立止った。腋下から冷い汗がツーッと辷った。遂に遂に、恐るべき怪物をまのあたりに見ることが出来た。彼は死にもの狂いの声をふりしぼった。
「何者だッ。動くなッ。動くと打つぞ」
 だが、不甲斐(ふがい)もなくピストル持つ手がワナワナと震えていた。
「二郎さまですか」
 怪物が答えた。何ということだ。怪物は音吉爺やであったのだ。
「変な(ふえ)の音がしたもんですから、念の為に見廻ったのですが、お嬢さまの部屋が何だか妙でございますよ」
「そうか。よしッ。ドアをぶち破れ」
 二郎は気負って叫ぶ。
 幸いドアは福田邸のものの様に頑丈ではなかった。二人の気を揃えた力で、何なく開いた。
 二人ははずみを(くら)って、寝室へ転がり込んだ。と同時に、アッと(ほとばし)驚愕(きょうがく)の叫び声。

 

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