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魔术师-麻の袋(2)

时间: 2023-09-20    进入日语论坛
核心提示: 音吉はゆらめく火影(ほかげ)に、暫くあちこち地面を眺めていたが、「アア、ここだ」 と呟いて、地面の一箇所を指さした。 見
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 音吉はゆらめく火影(ほかげ)に、暫くあちこち地面を眺めていたが、
「アア、ここだ」
 と呟いて、地面の一箇所を指さした。
 見ると、三尺四方ばかり、今掘返した様に、土の色が変って、そのそばに、一挺の(くわ)が転がっている。
 音吉は鍬を拾うと、いきなりその地面を掘り出した。
 音吉が何か見せるものがあるというのは、嘘ではないらしい。二郎は、いくらか安心して、その時まで掴んでいた挟を離し、相手の土掘り仕事を助ける為に、ライターを地面に近づけてやった。
「そこに何があるのだ」
「はっきりしたことは分りません。併し、わたしの想像では……」
 音吉は鍬を動かしながら答える。
「君の想像では?」
「非常に恐ろしいものです」
 と云った切り、彼は、ムッツリ黙り込んで、土掘りに余念がない。
 やがて、掘返された土の中に、麻の袋の様なものが見えて来た。
 その時、二郎の頭に突如として、ある恐ろしい考えが(ひらめ)いた。「そんなことがあるものか」と打消す下から、その想像は、段々はっきりと、毒々しい血の色で、彼の心中に拡って行った。
「サア、手伝って下さい」
 音吉が云うままに、二郎はその袋に手をかけた。二人がかりでやっと持上る程の、重い袋だ。
「音吉、これは一体何だ、この袋の中に這入っているのは」
 二郎は震え声で尋ねた。
「多分、わたしの想像していたものです。併し、あなた、この中を見る勇気がおありですか」
 二郎は袋を放り出して、いきなり逃げ出し()い様な気がした。
「もう一度、明りをつけて下さい」
 二郎が又ライターに点火すると、その淡い光の中で、音吉は袋の口を解いた。そして、底の方を持って、一振り振ると、袋の口から地面へ、ゴロゴロと転がり出したものは、……
 大方それと察していた二郎も音吉も、実際その切り離された人間の腕や足を見た時には、思わずアッと叫んで、飛びのいた。
「人形ではなかった。やっぱり、生きた人間だった」
 二郎が上ずった声で云った。
「そうです。あれは人形ではなかったのです」
 音吉は、彼もやっぱり、さっきの美人解体術を見ていたかの様に、合槌(あいづち)を打った。
「で、一体、これは誰の死骸なのだ」
「それを確めなければならないのです」
 二郎と音吉とは、じっとお互の目を睨み合った。二人共、調べて見るまでもなく、死骸の主を知っているのだ。
 音吉は、袋の底から、死骸の首を探り出して、二郎のライターに近づけた。まだ目隠しをされたままだ。音吉は片手でそれを解いた。ハラリと落ちる布のうしろから、現われたのは、アア、果して、果して、行衛不明となっていた、二郎の恋人、花園洋子の、変り果てた(おも)ざしであった。
「気違い! 気違い!」それを一目見るや、二郎自身気が違いでもした様にどなり出した。「気違いでなくて、あんな馬鹿馬鹿しいことをする奴があるものか。何の必要があって、千人の見物の前で、こんなむごたらしい目に合わせたのだ。気違いでなければ人殺しを見世物か何ぞの様に心得ている、極悪人だ」
「復讐ですよ」音吉が低い声で云った。「ホラ、忘れましたかね、隅田川の獄門舟を。あれと同じ思いつきです。犠牲者を、出来る限りむごたらしく、出来る限り多人数の前で、お仕置きするのが、犯人の目的なのですよ」
 二郎は、音吉の静かな声におびえて、クラクラと眩暈を感じた。
「で、つまり、こうして、一度埋めた洋子さんの死骸を、僕の目の前で、態々(わざわざ)掘出して見せるのも、やっぱり犯人の目的に叶う訳だね」
 二郎は最後の意力を(ふる)い起して云った。
「と、おっしゃるのは?」
「やっぱり、貴様が犯人だと云うのだ。でなくて、庭掃除の爺やが、何の為に今時分、こんな所へ来ているのだ。殺人事件の度毎に、いつも現場附近をうろついていたのは、どうした訳だ。それから、それから、パチンコで妙子を狙ったり、玄関の戸の暗号通信を拭きとると見せかけて、僕の注意を惹いたのは一体誰だったのか」
 一寸の間、妙な沈黙が続いた。音吉が何かを決し兼ねている様子だ。が、暫くすると、突然、全く聞き覚えのない声が、音吉の口から響いて来た。
「アア、君はまだ疑っているのですね。どうも是非(ぜひ)がない。では、二郎さん、僕の顔をよく見てごらんなさい」
 音吉は、二郎のライター持つ手を、グッと引寄せて、自分の顔を照らして見せた。
 そこには、一度も見たことのない、荒々しい一人の男が立っていた。かがんでいた腰がシャンと延びた。うなだれていた首が、まっすぐになった。
「まだ分りませんか」
 云いながら、音吉は、白髪まじりの(かつら)をかなぐり捨て、()け眉毛をはぎ取り、胡麻鹽(ごましお)無精髭(ぶしょうひげ)をむしり去った。その下から現われたのは、(老人らしい皮膚の斑点(はんてん)や、陽に焼けた顔色は、咄嗟(とっさ)に洗いおとすことが出来なかったけれど)明らかに、まだ三十代の、精悍(せいかん)な一男子であった。
 二郎はあっけにとられて、まじまじと相手の顔を見つめていたが、ハッとある相似(そうじ)に気付くと、真青になって、まるで幽霊にでも出逢った様に、ヨロヨロとあとじさりをした。
 彼はある人物の写真を思い出したのだ。その写真と、今目の前に立ちはだかっている人物とが全く同じに見えることが、彼を極度に怖がらせたのだ。

 

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