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魔术师-悪夢(2)

时间: 2023-09-20    进入日语论坛
核心提示:「マア!」妙子は憎らしげに兄を睨んで置いて、父親の方へ向き直った。「お父さま、とぐろを巻いていたのは、小さな、小豆色の蛇
(单词翻译:双击或拖选)

「マア!」妙子は憎らしげに兄を睨んで置いて、父親の方へ向き直った。「お父さま、とぐろを巻いていたのは、小さな、小豆色の蛇ですのよ。ホラ、ここに、まだシーツの上が(くぼ)んでやしないこと」
「エ、小豆色の蛇だって」
 善太郎氏は非常な恐怖の色を浮べた。彼は恐ろしく蛇嫌いであった。ヘビと聞いた丈けでも顔色が変る程であった。だが、今非常な恐怖を感じたのは、ただそれ丈けの理由ではない。
 一郎も二郎も、それを知らなかったけれども、善太郎氏は明智小五郎から、賊の最期について詳しい話を聞いていた。例の怪しげな蛇の一件も、それが賊の所謂(いわゆる)怨霊かも知れないという怪談めいた一節も、(ことごと)く聞知っていた。珍らしい小豆色の蛇、おまけに角力取りみたいな大男、いずれも怪賊魔術師を思出させる者共ではないか。彼が恐れ(おのの)いたのも無理ではなかったのだ。
「その蛇は、どこへ行った」
 彼は青ざめて、キョロキョロ身辺を見廻しながら尋ねた。
「あたしが、びっくりして飛起きると、チョロチョロとベッドを伝い降りて、ドアの方へ走って行きました。そして、その入口の所で、鎌首をもたげて、まるで人間みたいに、じっとあたしの顔を見つめているのです。それから……」
「それから?」
「それから妙なことが起ったのです。又一郎兄さまに叱られるかも知れませんわ。余り変なのですもの。あすこの鼠色の壁から浮き出す様に、一人の天井につかえ相な、大男が現われて、ハッと思う内に、スーッと、外へ出て行ってしまったのです。そして、蛇も、その人がいなくなると見えぬ様になってしまいました」
「ハハハハハハ、まるで石川五右衛門の忍術だね。鼠の代りに蛇を使って」
 案の定、一郎がお茶を入れた。
 だが、善太郎氏は笑えなかった。忍術と聞くと一層変な気持になった。
 若しや奥村源造はまだ生きているのではあるまいか。船の中で死んだのも、共同墓地へ埋葬せられたのも、彼の所謂魔術ではなかったのか。死んだと見せかけ、どこかに潜伏していて、ほとぼりのさめた今頃又姿を現わし始めたのではあるまいか。若し生きているとしたら、あいつは蛇の忍術だって使いかねぬ怪物だ。とそんなことまで考えた。
 それから一郎二郎の兄弟や、書生達に命じて、家中(くま)なく捜索させたが、角力取りみたいな奴は勿論、小豆色の小蛇も、どこにも姿を見せなかった。
「お父さん、気になさることはありませんよ。夢です。妙子が夢を見たのですよ」
 一郎に云われると、成程そうかとも思うので、善太郎氏は警察沙汰にする様なこともなく、その日はそのまま済んでしまったが、二三日たった夜のこと、又しても恐ろしいことが起った。しかも今度は、当の善太郎氏が襲われたのだ。
 ――庭の池の亀を見ていると、その可愛らしい亀の頭がニューッと伸びて、小豆色のまだら蛇になった。
 蛇嫌いの善太郎氏は「ギャッ」と云って、逃げ出したが、走っても走っても、蛇の頭がすぐうしろにあるのだ。そいつは亀の胴体から、紐の様に無限に伸びて来るのだ。
 庭の向うに一郎、二郎、妙子の兄妹が笑い興じていた。善太郎氏は「助けてくれ」と叫びながら、その中へ入って行った。そして、三人に囲まれながら、うしろを見返ると、細い紐の様な小蛇が、いつのまにか、胴廻り一抱えもある様な、庭一杯の大蛇に変っていた。
「アッ」と思う内に、親子四人とも、その大蛇の為に、グルグル巻きに巻き込まれてしまった。むせ返る様な蛇の体臭、ヌルヌルした肌触り。
 大蛇は、徐々に四人を絞めつけながら、空一杯の鎌首をもたげ、火焔の様な舌をはいて、頭の上から、ただ一呑みと迫って来る。……
 我れと我が悲鳴に、ヒョイと目を開くと、ベッドの中でビッショリ汗をかいていた。今のは夢であったのだ。
「アア、夢でよかった」
 善太郎氏はホッと安心して、寝返りをしようとしたが、オヤッ、何だか掛け蒲団(ぶとん)の上に乗っているものがある。ズッシリと重い一物だ。
 彼は鎌首をもたげて(それが夢の中の蛇とソックリの格好に見えた)その方を眺めた。眺めたかと思うと、今度こそは、本当に「ギャッ」と絞め殺される様な悲鳴を上げた。妙子の場合と同じだ。掛蒲団のシーツの上に、小豆色のまだら蛇が、とぐろを巻いていたのである。
 善太郎氏が飛び起ると、蛇は床を這って素早く逃げてしまった。と同時に、黒い影が(なんとそれが出羽ヶ嶽みたいな巨人だったではないか)スーッとドアの外へ姿を消した。あとになって考えて見ると、その大入道は、さい前から、部屋の隅で、善太郎氏の寝姿をじっと見守っていたらしいのだ。
 それから起ったことは、妙子の場合と全く同じであった。蛇も角力取りも、煙の様に消え去って、どこを探しても、影さえなかった。
 ただ違っている点は、角力取りの消え去ったあとに一枚の紙切れが落ちていたことだ。
 しかもゾッとしたことには、その紙切れには「奥村源造」と、簡単ながら、非常に恐ろしい四文字が書きつけてあった。怨霊は彼の名札を残して行ったのだ。

 

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