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魔术师-緋色のカーテン(1)

时间: 2023-09-20    进入日语论坛
核心提示:緋色(ひいろ)のカーテン 夜(よ)に入(い)って、明智のアパートに第二の訪問者があった。玉村妙子さんだ。午前、彼女から電話で予
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緋色(ひいろ)のカーテン


 ()()って、明智のアパートに第二の訪問者があった。玉村妙子さんだ。午前、彼女から電話で予告があったので、明智の方でも心待ちにしていたのだ。楽しからぬ待人(まちびと)ではあったが。
 併し、妙子さんは美しかった。文代びいきの明智の目にも、顔形の美しさでは、妙子さんの方が数段まさって見えることを否定出来なかった。
 彼女は、肉体の線があらわに見える様な、絹の春服を身に纒い、顔にも手にも、念入りのお化粧を施していた。
「あたし、おそくなってしまって。お待たせしましたでしょうか」
 彼女は薄絹の手袋をぬぎながら、あでやかに笑って見せた。
 明智は外套(がいとう)を脱がせてやる為に、うしろに廻らねばならなかった。
「お待ちしていました。兄さん達のお加減は如何ですか」
「エエ、有難う。まだ起きられませんけど、大分いい様ですの。本当に御心配をかけまして」
 妙子はソファに腰かけながら、まだ外套を手にして立っている明智を、(なまめ)かしく見上げた。読者も知っている通り、彼女は明智を愛していた。彼の方で避ける程、追いすがって来る様に見えるのだ。
 明智は妙子のソファと向き合った長椅子に身を沈めた。
 妙子はお礼やら、父を失った悲しみやら、えたいの知れぬ犯人の恐れやら、女らしくクドクドと話し続ける。
 いつまで待っても、用件が分らぬので、明智はとうとうしびれを切らして、ぶっきら棒に尋ねた。
「で、ご用件は?」
 妙子は「マア!」という表情で、やさしく睨んで見せたが、
「外の用件がある筈はございませんわ。父を殺した犯人を探し出して頂き度いのです。そして、私達兄妹を安心させて頂き度いのです。あんな毒薬騒ぎが起る様では、怖くって、オチオチ邸にいることも出来やしませんわ。……その後何か手掛りがございまして? 安心の為に詳しくお話し下さいませんでしょうか」
「そんなに御心配なさらなくても、もう明日からは、決して何事も起りませんよ」
「マア、それでは何か判りましたのね。聞かせて下さいまし。どうか」
 妙子は熱心の余り、我を忘れたかの様に、ソファを立って来て、長椅子に明智と膝を並べて腰かけた。
「ね、それを、聞かせて下さいませんか?」
 彼女は、さも無邪気らしく、明智の膝に手をかけて、その上によりかかる様に身体をくねらせて、下から、明智の顔を見上げるのだ。
 明智は、ピッタリと密着した相手の膝の、すべっこい暖味(あたたかみ)を感じた。彼自身の膝の上で、グリグリと蠢く相手の指先を感じた。そして、我顔の真下にある彼女の唇から立昇る、なまめかしき薫りを呼吸した。
 アア、何という大胆な令嬢であろう。
 明智は極度の困惑を感じた。妙子さんは美しいのだ。彼女の身体はなまめかしいのだ。そしてその愛すべき生物(いきもの)が、今彼の膝の上に、身を投げかけているのだ。
 彼は心の底から湧き上って来る身震いを、どうすることも出来なかった。恐ろしいのだ。何とも形容し難い恐怖だ。
「そんなに聞き()いのですか」
 明智はやっと(おの)れを制して云った。
「エエ、聞きとうございますわ」
 恐ろしいことには、物を云う度に、妙子の赤い唇が段々接近して来るのだ。
「犯人が分ったのです」
「マア、犯人が……」
 驚きの余り、妙子の顔が、一刹那青ざめて見えた。
「何者でございますの? その、犯人は」
 まるで救いをでも求める様な、弱々しい表情になって、なよなよと明智の膝に(もた)れながら、少し呼吸をせわしくして尋ねる。
「知り度いですか」
 明智はよりかかって来る、柔い肉塊を、ソッとかわす様にして云った。
「エエ、無論知りとうございますわ」
「あなた、勇気がおありですか」
「マア」妙子は息を引いた。「勇気ですって? どうして勇気が()るのでしょう」
「犯人は、ある空家にいるのです。そいつの顔を見る為には、淋しい空家に入らねばなりません」
「でも、そんな。あたし犯人を見たいとは思いませんわ。ただ、捕まえて下されば……」
「無論捕縛します。併し、あなたは犯人が憎くはありませんか、一目見てやり度いとは思いませんか」
「エエ、父の(かたき)ですもの、憎くない筈はございません。でも、そんな怖い男に逢うのは……」
「イヤ、男ではないのです。犯人は女性なのです。しかもあなたのよく知っている人です。面と向ってあなたに危害を加え得る様な、強い女ではありません。その上相手に悟られぬ様に、こっそり隙見(すきみ)をする方法もあるのです」
「マア、あたしの知っている女の人でございますって? 誰でしょう。ちっとも心当りがないのですが」
「非常に意外な人物です」
「アア、若しや奥村源造の娘の文代ではありませんか」
「違います。文代はまだ未決監にいるのです。もっともっと意外な人物です。今夜十時になれば、そいつは捕縛されるに極っています。明朝は世間に知れ渡ってしまうのです。若し、それまで待ち切れなかったら、その空家へ行ってソッと隙見をなさいませんか。波越さんも僕も無論そこへ行くのです。あなたは多分犯人が逮捕される現場を見ることが出来ましょう」
「それは、一体どこの空家でございますの」
 妙子は、もう明智の膝を離れて、犯人逮捕の吉報に夢中になっていた。無理もない。父が惨殺されたばかりか、奥村源造には、彼女自身も、度々死ぬ様な目に合わされている。そいつの片割れが発見されたとあっては、昂奮しないではいられぬのだ。

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