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魔术师-緋色のカーテン(2)

时间: 2023-09-20    进入日语论坛
核心提示: 明智は、さい前(ぜん)波越氏に教えた通りの道順を、繰返した。併し、妙子には裏の窓から入れとは云わなかった。「その石門を入
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 明智は、さい(ぜん)波越氏に教えた通りの道順を、繰返した。併し、妙子には裏の窓から入れとは云わなかった。
「その石門を入ると突当りに玄関があります。ドアを押せば開く様になっています。あなたは、一人でそのドアを入って、廊下を真直に歩いて行くと、開け放った広い部屋に出ます。その部屋の右側に、緋色のカーテンが下っている。カーテンの向側には、別の小部屋があって、電燈がともっています。あなたは、緋色のカーテンの合せ目を開いて、そっと中を覗けばよいのです。そこに犯人がいるのです」
 何という奇妙な方法だろう。妙子も波越警部と同じく、なぜそんな廻りくどいことをするのかと、不審を抱かないではいられなかった。
「犯人を見ようと思えば、今僕の云った順序を、完全に守って下さらねばいけません。若し間違うと、非常に困る事が起るのです」
 明智は更らにもう一度、空家への道順と、隙見の方法を繰返した。
「でもあたし、何だか気味が悪うございますわ。あなたとご一緒に行けるといいのだけれど」
「それは駄目です。あるトリックによって、犯人をその部屋へおびき寄せるのが、僕の仕事なのです。そして、波越警部に引渡すまでは安心が出来ません」
「では、波越さんにお願いして、お(とも)出来ないでしょうか」
「それも駄目です。そんなことを頼めば、なぜ秘密を打開けたかと、僕が叱られますよ。あなたは一人でいらっしゃい。でなければ、酔狂(すいきょう)な真似はおよしになった方がよいでしょう」
 取りつく(しま)がなかった。
 彼女はなおも執拗(しつよう)に、犯人の名を聞かせてくれとせがんだけれど、明智は固く口をつぐんで語らなかった。
 明智に分れてアパートを出た妙子は、その不気味な空家へ行って見ようか、どうしようかと、とつおいつ、長い間思案をしていたが、とうとう行って見ることに心を極めた。
 早く敵の顔が見たいという憎しみ、一体誰だろうという好奇心、小説的な冒険の誘惑、色々な心持が、彼女を行け行けとそそのかした。併し、若しそれ丈けの理由であったら、彼女は行かなかったかも知れない。
 外に一つ、どうしても行かずにはいられない理由があった。翌朝まで待てば分ることを、その僅かの時間さえ待っていられない、せっぱつまった気持があった。見るのも恐ろしい。だが、待つのは猶更(なおさ)ら恐ろしい。何とも云えぬいらだたしさに、彼女は息づまる様な苦悶を味った。
 彼女は、(わざ)と肴町で自動車を降りて、団子坂通りを指定の空家へと歩いて行った。
 横町を曲ると、陰気な住宅街で、頭より高い生垣が、両側にまるで八幡(やわた)藪不知(やぶしらず)みたいに、うねうねと続いていた。
 闇夜は距離を二倍に見せる。さ程でもない道のりを、妙子は、この生垣の中で、迷児(まいご)になってしまうのではないかと思った程だ。
 だが、やっとそれらしい石門が見つかった。星明りにぼんやり見える西洋館の屋根は、真黒な大入道の様であった。余りの不気味さに、
「いっそ帰ろうかしら」
 と引返しかけたが、といって、犯人の隙見をあきらめる気にはなれぬ。単なる好奇心なら、引返しもしたであろう。だが、彼女には、彼女の外は誰も知らぬ、好奇心以上の、せっぱつまった必要があったのだ。
 足音を忍ばせて、門を入り、雑草の生いしげった地面を、玄関へとたどりついた。
 押して見ると、ドアは音もなく開いた。真直(まっすぐ)な廊下の突当りに、幽かな光が見える。多分あれが犯人のいる部屋なのであろう。
 心臓が異様に波打ちはじめた。
 アア、もう少しで、ほんの数秒の後には、真犯人を見ることが出来るのだ。と思うと、妙子は苦しさに息がつまり相だった。身がすくんで、ヘナヘナとくずおれ相な気がした。
 だが、全身の気力をふるい起して、やっとそれに打勝った。
 彼女は、広い廊下を抜足(ぬきあし)差足(さしあし)、まるで彼女自身が、何かの怨霊ででもある様に、音もなく、奥へ奥へと進んで行った。
 明智の言葉にたがわず、広い部屋に出た。右手を見ると、向側(むこうがわ)の電燈が、緋色のカーテンを、美しく照らしている。
 愈々(いよいよ)その時が来たのだ。
 あのカーテン一枚を隔てて、向側には、恐ろしい犯人がいるのだ。
 仮令相手が女にもせよ、気づかれては大変だ。絹ずれの音も、幽かな空気の動揺も、注意しなくてはならぬ。
 妙子はつま先で歩きながら、息を殺して、カーテンに近づいた。
 じっと聞耳をたてても、何の気配も感じられぬ。犯人は、身動きもせず、誰かを待受けているのではなかろうか。誰を? 若しかしたら、妙子その人を待受けているのではないか。と思うと、身体中の産毛(うぶげ)が、ゾーッと逆立った。
 だが、ここまで来たものだ。今更ら躊躇している場合でない。入口で手間取ったので、約束の十時はとっくに過ぎた筈だ。
 妙子はソッとカーテンの合せ目に指をかけた。そして、ジリリ、ジリリ、動くか動かぬか分らぬ程の速度で一()ずつ一分ずつそれを開いて行った。

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