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魔术师-大団円

时间: 2023-09-20    进入日语论坛
核心提示:大団円(だいだんえん)「みなさん」明智は一段声を高めて始めた。「妙子さんは、悪事に荷担して人殺しまでしたとは云え、実父であ
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大団円(だいだんえん)


「みなさん」明智は一段声を高めて始めた。「妙子さんは、悪事に荷担して人殺しまでしたとは云え、実父である源造の(めい)を守って、祖父の復讐をとげたのですから、この人の立場としては、ある意味では尤もな点もあり、寧ろ同情すべきですが、妙子さんがその復讐の手段として、罪もないこの少年を、手先に使い、日夜側に置いて、一個の恐るべき野獣として育て上げた点だけは、人道上断じて許すことの出来ない罪悪です。……
波越君、福田氏殺害事件と、今度の玉村氏惨殺事件に出没した例の巨人の秘密はここにあったのです。妙子さんは進一少年に異様な教育を施した。この子供の頭から、あらゆる道徳観念、正義観念を追い出して、遠い先祖の野獣から伝わった、残忍刻薄な性質ばかりを発達させて行った。そして、全く良心の影さえ持たぬ、一個の陰険極まる小野獣を作り上げてしまったのです。……
実に戦慄すべき事実です。育て方によっては人間がこんな怪物になり切ってしまうかと思うと、ゾッとしないではいられません。一見普通の子供と少しも違わぬこの進一少年は、人殺しを(むし)ろ快楽とする異常児です。田舎の子供が(かわず)を殺して喜ぶ様に、この少年は人間の胸に短刀をつきたてて喜ぶのです。なにしろまだ物心もつかぬ幼児です。その上貧家に育ち、早く両親に分れて、道徳的訓練を微塵(みじん)も受けて居らぬ。そこへ、命の親とたのみ親しむ妙子さんから、不思議な教育を受けたのです。無邪気な殺人鬼となりおおせたのも無理ではありません。……
福田氏の場合も、玉村氏の場合も、殺人は内部から完全に締りをした、出入口のない部屋の中で行われました。これが解き難い謎として我々を苦しめたのです。ところが、こんな小さな子供が共犯者であったとすると、あの謎もなんなく解くことが出来るのです。(ドア)の上部の換気用の回転窓。あれです。あんな狭い所から人間が出入りしようとは、誰も考えても見ません。どんな小柄の大人にだって、これは全く不可能だからです。ところが進一少年の様な幼児(おさなご)となると、問題は別です。骨の細い幼児なら、あすこをくぐって、部屋へ出入りすることが出来るのです。アア何という巧みな思いつきでしょう。如何に疑い深い警察官でも、まさかこんな、九歳や十歳の幼児が共犯者だとは気がつきませんからね。……
妙子さんは進一少年をつれて被害者の部屋に這入り――這入るのは家族のことですから、訳はありません――殺害の目的を果し、例の笛を吹き花を撒いて死者を葬ると、ドアの鍵を進一少年に渡して、妙子さんは先に部屋を出、少年は中から戸締りをして置いて、猿の様に回転窓に昇りつき、そこから、外の廊下へおりて逃げ去る、という順序です。
例の巨人は、妙子さんが進一少年を肩の上にのせ、その上からマントをはおって、逃げ出して見せ、殺人事件に奇怪な怪談味をそえ、警察をまどわせる手段としたのです。壁に押されていた巨人の手型も、その怪談を一層本当らしく見せかける為の拵えものに過ぎません。……
妙子さん、これで僕は、あなたの秘密をすっかり曝露(ばくろ)した訳です。それに証人は二人も揃っています。いくら君が強情を張っても、もうのがれる道はありませんよ。それとも、ここで進一君に、殺人の順序を尋ねて見ましょうか。イヤ、実演させることも出来るのです。この子は、もうすっかり僕になついて、僕の命令なら何だってやりますよ」
妙子は、今や絶体絶命の土壇場である。彼女の青ざめた額には、不気味な玉の汗が浮び、つり上った目は、真赤に血走っていた。
彼女はじっと空間を見つめて、無言のまま立ちつくしていたが、やがて、その打ち(ふる)う右手が人知れず、虫の這う様に、少しずつ、胸の方へ上って行った。
「アッ」
と云う叫声、飛鳥の様に飛びついて行く明智。突きとばされて、よろよろと倒れる妙子。
人々は何事が起ったのかと、あっけにとられて眺めるばかりだ。
「何をするのです。危いじゃありませんか」
明智は、妙子の手からもぎ取ったピストルを、(てのひら)の上で(もてあそ)びながら、叱りつけた。
「一郎君と二郎君を道づれにして、自殺をする積りだったでしょう。君はまだ執念を捨てないのですね」
「アア、あたしは自殺をすることも出来ないのですか。あんまりです、あんまりです」
妙子は床の上に身を投げて、遂に泣き伏してしまった。
雄弁な自白だ。明白な服罪(ふくざい)だ。それにしても、宝石王玉村家の令嬢と持て(はや)され、女王の様にふるまっていた妙子が、又、稀代(きだい)毒婦(どくふ)として、世間を、警察を、思うがままに飜弄していた彼女が、この服罪は余りと云えばみじめであった。
一郎と二郎とは、昨日まで我が妹といつくしんだ、妙子のこの有様を見るに耐えなかった。
「父を殺した憎い奴ですが、かりそめながら兄妹のちぎりを結んだ女です。どうかいたわってやって下さい。……オイ、妙子、もう覚悟を極めるがいい。いつまで泣いていたところで、仕方がないのだから」
一郎が、恨みを忘れて、やさしく声をかけた。
だが、俯伏した妙子は、その慰めの言葉も聞えぬものの(ごと)く、毒婦にも似合わしからぬ、未練な泣声をやめなかった。
(しん)と静まり返った空家の一室、赤茶けた電燈の光、黙り返っている一団の人々、その中に、怪美人妙子の、甲高い泣声ばかりが、恨めしく、悲しく、いつまでもいつまでも続いていた。
×     ×     ×     ×     ×
かくして、怪賊魔術師は(ほろ)びた。妙子は直ちに刑務所に収容され、それと入れ代る様にして、可憐の文代さんが自由の身となった。彼女が賊の娘ではなくして玉村宝石王の実子、一郎二郎の実の妹であることを聞かされた時、どの様な歓喜を味ったか、それは読者の想像に任せて置けばよい。
玉村家は一郎が相続して、宝石店の経営に当り、二郎はその熱心なる共働者であった。父を失った兄弟は、文代さんという、美しく優しい妹を得て、世にも(むつ)まじい三人兄妹が出来上った。
文代さんは、最早や賊の娘ではなかった。父にそむいた裏切りものでもなかった。彼女は今や何の遠慮も気兼(きがね)もなく彼女の恋を楽しみ得る身の上であった。
「文代さん、事務所へ出勤かい」
二郎兄さんにそんな風にからかわれる日が来た。
妙子は明智小五郎の女助手を志願して、彼の事務所の開化アパートへ、毎日の様に通い始めたのだ。
怪賊魔術師の娘であった丈けに、彼女は探偵助手には持って来いだ。その後文代探偵が、明智を助けて、どの様なすばらしい手腕を見せたか。そして、遂に彼女が明智夫人と呼ばれる様になるまでのいきさつはどうであったか。それらの顛末(てんまつ)は「吸血鬼」という別の物語に譲って、「魔術師」物語は、これにて大尾(たいび)として置きましょう。

 

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