「わかるかね。あれは警視庁から来ている刑事だよ。わしのうちのまわりには、七人ほどの刑事が番をしている。いつ、宇宙怪人がやってくるかわからないからね。ああして、見はっているんだよ。それをまた、わしが、ここから見はっているというわけだ。あの刑事は、びっくりしてこちらを見ているね。とつぜん、強い光線にてらされたので、おどろいているんだよ。テレビは、光線をあてないと、うつらないからね。わしの屋敷のまわりには、ほうぼうに、テレビのしかけがしてあって、そのそばに、強い電灯がついているのだ。このボタンを押すと、その電灯がパッとつくのだよ。サア、こんどは、べつの場所を、うつしてみよう。」
そう言って、博士がどこかのボタンを押しますと、いままでのけしきが消えて、べつのけしきがあらわれました。やっぱり博士邸です。お城のような建物の一部が見えています。
「これは、わしのやしきの、うらがわのほうだ。だれもいないが、いまに、やってくるよ。刑事諸君はたえず、歩きまわって、見はりをしているんだからね。」
そのことばが、おわらないうちに、テレビの画面に、ふたりの人間があらわれてきました。
ひとりは、背広の男、ひとりはルンペンのようなやつです。そのふたりが、けんかをしながら、歩いてきたのです。そして、たちまち、とっくみあいが、はじまりました。上になり下になり、ころげまわっています。まるで、すもうのテレビでも見ているようです。
けっきょく、背広のほうが勝ちました。ルンペンは、くみしかれてしまったのです。そして背広の人は、ポケットから手錠をとりだすと、パチンと、ルンペンの手にはめてしまいました。
「ハハハ……、これは宇宙怪人とは、かんけいがない。わしのうちの庭へ、しのびこんできたどろぼうだよ。さすがは刑事君、みごとにつかまえたね。わしのうちは、森の中にあって、塀もひくいものだから、よく、あんなやつが、はいってくる。たいしたどろぼうじゃない。あきすねらいだよ。」
そのときです。小林君がテレビから、ちょっと目をそらすと、その目のすみに、へんなものが、うつったのです。小林君は、「オヤッ。」と思って、そのほうを見なおしました。
それは、部屋の一方のガラス窓でした。あの水族館のようなガラス窓でした。その窓のそとには、なんだか、えたいのしれない、きみの悪いものが、うごめいていたのです。
小林君が、ゾッとしたような目つきで、そのほうを見つめているので、博士も助手の美少年も、そちらへ目をやりました。
二メートル四方のガラス板のそとには、銀色にかがやく小ざかなたちが、右に左に、上に下に、うつくしく、およいでいました。
ところが、よく見ると、その厚いガラス板の、右のはじに、さかなとはちがって、きみ悪いものが、ガラスにピッタリくっついて、うごめいているのです。
それは、むこうに、ひらめいている、長いもよりも、もっとあざやかな、みどり色のものでした。かたちは人間の手をひろげたようなものです。その指と指のあいだに、やはり、みどり色の皮のようなものが、ついています。水かきです。水かきのある、みどり色の手!
小林君は、ギョッとして、頭の中の血が、スーッと下のほうへさがっていくような気がしました。
「きみたち、はやく、からだをかくして。あいてに見られてはいけない。」
虎井博士が、ささやき声で、ふたりの少年に言いました。そして、自分がさきにたって、その窓の横のかべに、ぴったり身をつけて、ソッとガラスをのぞくのでした。二少年も、そのまねをして、かべぎわに、身をかくしました。
みどり色の手が、ふたつになりました。そしてそれがガラスをなでるようにして、だんだんのびてきます。
博士も二少年も、そのぶきみな手のむこうに、どんなからだがついているかを、よく知っています。あんないやらしい手をもったやつは、ほかにないからです。宇宙怪人のほかには、ないからです。
小林君は、宇宙怪人が、空を飛ぶことばかり考えて、水にもぐることを、わすれていましたが、水かきがあるからには、水の中にも、すめるのです。この星の世界の生きものは、水陸両生動物だったのです。
みどり色の手が、ぜんぶあらわれると、つぎには、むらさきとみどりと黄色の、ふといしまになった肩が見え、それから、れいのぶきみな大トカゲのからだが、水の中にフラフラうきながら、あらわれました。そして、顔です。鳥のひよっこのような、グニャグニャした大きな口、ワシのように、するどい目、頭のうえの、トサカのようなギザギザ、博士も二少年も、話には聞いていましたが、宇宙怪人の正体を見るのは、いまが、はじめてでした。ああ、なんという、おそろしい化けものでしょう。さすがの虎井博士も、息づかいが、はげしくなったようです。まして、ふたりの少年は、こわさに、身がすくんでしまって、逃げだすことも、口をきくことも、できなくなってしまいました。
やがて、怪物は、そのいやらしい顔を、ピッタリ、ガラスにくっつけて、あのするどい目で、ギョロギョロと室内をのぞきこむのでした。