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名探偵

时间: 2022-08-09    进入日语论坛
核心提示:名探偵 ある日、明石一太郎が学校から帰って、茶の間のお母さんのところへ行って、「ただ今」と言いますと、お母さんは待ちかね
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名探偵


 ある日、明石一太郎が学校から帰って、茶の間のお母さんのところへ行って、「ただ今」と言いますと、お母さんは待ちかねていたように、こんなことをおっしゃるのでした。
「一太郎さん、今日たいへんなことがあったのですよ。妙子ちゃんが、幼稚園から帰りに、そこの大通りでころんで、今にも自動車にひかれそうになったんですって」
「え、自動車に?」
 一太郎は、かわいい妹の妙子ちゃんが、そんな目にあったときいて、びっくりして思わず大きな声をたてました。
「いいえ、べつにけがはしなかったの。ちょうどあんたぐらいの小学校の生徒さんが、妙子ちゃんを助けおこして、わざわざうちの門のところまでつれて来て下さったのです。
 妙子ちゃんが言うのには、ころんだ時、カバンがひらいて、中のものが、みんな道へこぼれたのですって。筆入もふたがとれて、クレヨンがバラバラと、そのへんにちらばったのですって。そこへ、むこうから自動車が走って来たので、今いった小学校の生徒さんが、とんで来て、妙子ちゃんを助けおこし、自動車をよけてから、こぼれたものを、みんなひろって、カバンの中へ入れて、それから、泣いている妙子ちゃんをつれて、門のところまで送って下さったのです」
「誰だろう。僕の学校の生徒かしら」
「ええ、そうらしいのよ、一太郎さんのお友だちかもしれないわ。お母さんが出て行くと、走っていってしまったので、うしろ姿だけは見たけれど、誰だかわからないのです。妙子ちゃんも知らないって言うの。
 でも、妙子ちゃんが、ここの子だっていうことを知っていたのを見ると、やはり、一太郎さんのお友だちか知れないわ。あした学校へ行ったら、さがして、お礼を言って下さい」
「そうですね。……でもね、お母さん、もしその生徒が、僕のなかよしの友だちだとすると、なかなかさがし出せないかも知れませんよ」
「なぜなの?」
 一太郎君が妙なことを言ったので、お母さんは不思議そうな顔をなさいました。
「あのね、僕の組で、なかよしの友だちが六人いるんです。その六人が約束して、一日一善っていう事をやっているんです。なんでもいいから、人のためになる事を、一日に一つはかならずやるっていう約束なんです。僕も毎日やっているんです。でも、何をしたかは言えません。言っちゃいけないっていう約束なんです。
 ほめられたりお礼をいわれたりするためにやるんじゃなくって、ただいい事だからやるんでしょう。だから、人に知られないようにこっそりやらなけりゃいけないのです。もしそれを人に話したり、じまんしたりすれば、その日はなにもいい事をしなかったのと同じになっちゃうんです。(れい)になっちゃうんです。だから、いくらたずねてもきっと言いませんよ」
「まあ、そんな約束をしているの。感心ね。でも、今日のは特別にいいことなんだから、いっても零にならないことにして、その生徒さんを白状させなさいよ。わかったら、お母さんもお礼を言いたいのですから」
「じゃ、僕、やってみます」
 一太郎は、それから、妹の妙子ちゃんのところへ行って、いろいろたずねてみましたけれど、なにをいうにも幼い子供のことであり、その時はまた夢中だったものですから、はっきりとしたことがわからず、これという手がかりもつかめません。一太郎君はこまったような顔をして、しばらく考えこんでいましたが、やがて、なにを考えついたのか、「あ、そうだ」と、ひとりごとを言ったかと思うと、いきなり、妙子ちゃんのカバンの中から、黒地に赤い花の模様のあるセルロイドの筆入を取出しました。妙子ちゃんがころんだ時、中のクレヨンが道にちらばったという、あの筆入です。
「ちょっと、これを兄さんにかしてね」
 一太郎君はそう言って、その筆入をだいじそうに持って、自分の勉強部屋に入りました。そして、机のひきだしから拡大鏡を取出し、筆入のふたを取って、その裏表を熱心にのぞきこんでいましたが、しばらくすると、なにを見つけたのか、
「あ、あったぞ、これだ、これだ」
 と、さもうれしそうにつぶやくのでした。皆さん一太郎君は、いったい何を発見したのでしょう。
 さて、そのあくる日は、朝からシトシトと雨の降りつづく陰気な日でしたが、一太郎君は何か楽しい事でもあるらしく、いそいそとして学校へ出かけました。
 生徒たちは、広い雨天体操場に入って、授業のはじまるのを待つのでしたが、駈けまわるもの、とっくみ合いをするもの、あちらでもこちらでも、ワーッ、ワーッと、おもちゃ箱でもひっくり返したようなさわぎです。
 一太郎君は、その中から「一日一善」の六人のお友だちをさがし出して、みんなに昨日(きのう)の事をたずねてみましたが、誰も僕がやったのだと言うものはありません。妙子ちゃんを助けてくれたのは、どうもその六人のうちの一人らしいのですが、みんな知らぬ顔をして、笑ってばかりいるので、どうしてもわからないのです。
 一太郎君があまりくどくたずねるものですから、六人の中でも一番なかよしの中村君などは、こんなことを言って、からかうのです。
「そんなに疑うのなら、君の智恵で、僕らのうちの誰がやったのだか、さがし出せばいいじゃないか。君は智恵の一太郎じゃないか」
 すると、みんながおもしろそうに、ワーッとはやしたてるのです。
「ようし、それじゃ、僕にも考えがある」
 一太郎君は、くやしくなって、おこったような顔をして、きっぱりと言うのでした。
 間もなく始業のベルが鳴り出しましたので、みんなはそのまま整列して教室に入りましたが、その第一時間目の授業がすんで、また雨天体操場にもどりますと、一太郎君は何を思ったのか、一方のすみのガラス窓のそばへ行って、立ちどまったのです。
 そして、窓のガラスにハーッと息をふきかけて、白くくもったところへ、自分の両手の親指をぐっとおしつけました。すると、指の先のうずまきのあとが、ガラスの上にハッキリとあらわれたのです。一太郎君はポケットに用意してきた拡大鏡をとり出して、その二つのうずまきのあとを、熱心にのぞきはじめたものです。
 なかよしの六人のお友だちは、それを見つけると、何をやっているのかと、次々にそこへ集って来ました。そして、一太郎君の拡大鏡を、横からのぞきこみながら、
「君、なにをしているの?」「なにが見えるの?」と口々にたずねるのでした。
「君たち知ってるかい。これ指紋っていうんだよ。みんな自分の指の先を見てごらん。きれいなうずまきになっているだろう。このうずまきは、人によってみんなちがうんだって。何千人、何万人よっても、同じうずまきなんて、一つもないんだって。人間は、一人一人顔がちがうように、指のうずまきもちがっているんだよ。君たちもこのガラスに、うずまきをうつして見るといいや。こうしてね、両手の親指をおしつけるんだよ。親指のうずまきが一等はっきりうつるから」
 一太郎君が、いかにもおもしろそうに、やって見せるものですから、みんなもそのまねをして、前のガラスにハーッと息をかけて、両手の親指をおしつけました。少したって、息のくもりが消えると、うずまきのあとも見えなくなってしまいますが、又、ハーッと息をかけると、ありありとあらわれて来るのです。
 みんなは次々と、一太郎君の拡大鏡をかりて、自分の指のあとと、お友だちの指のあとをくらべたりして、おもしろがっていましたが、やがてそれにもあきると、六人は一太郎君を残して、どこかへ行ってしまいました。
 みんながいなくなるのを待って、一太郎君は、一方のポケットから、ハンケチに包んだ細長いものを、だいじそうに取出しました。ハンケチをひらくと、中から、妙子ちゃんの筆入のふたが出てきました。
 一太郎君はその筆入のふたの裏がわに、ハーッと息をかけて、拡大鏡でしばらくのぞきこんでから、今度は、前の窓ガラスに、ハーッハーッと、いくども息をふきかけて、六人のお友だちの残して行った指のあとを、一つ一つ見くらべていましたが、やがて、
「あ、これだ、これだ、すっかり同じだ。やっぱりそうなんだ。妙子ちゃんを助けてくれたのは、北村君だったんだ」
 とうれしそうにつぶやきました。
 皆さん、もうおわかりでしょう。昨日妙子ちゃんがころんだ時、カバンの中から筆入がとび出して、中のクレヨンが地面にちらまかれたのを、ひろい集めてくれましたね。その時の指のあとが、すべすべしたセルロイドの筆入に残っていたのです。
 筆入のふたの表と裏には、妙子ちゃんのらしい小さい指のあとが、たくさんついていましたが、それとは別に、すこし大きい指のあとがいくつか残っていたのです。そして、ふたの裏がわに一ばんハッキリ残っていたのは、その生徒がふたをつかんだ時の、親指のあとにちがいないように思われたのです。
 それで、一太郎君は、その筆入のふたを、妙子ちゃんにかりて、わざわざ学校へ持って来たのですが、今、窓ガラスのお友だちの指のあとと、一つ一つ見くらべますと、北村君の残して行った、右の親指のうずまきが、筆入のふたの裏のうずまきと、寸分ちがわないことがわかったのです。
 指のうずまきは、顔がちがうのと同じように、人によって皆ちがうのですから、こんなたしかな証拠はありません。その上、この親指には、小さい傷のあとが残っていて、筆入の方も、ガラスの方も、それがすっかり同じなのですから、もう少しもうたがいはありません。とうとう発見したのです。妙子ちゃんを助けたのは北村君だということがはっきりわかったのです。
 そこで、一太郎君は、北村君をさがし出して、証拠をつきつけて見せましたので、北村君もかくしきれず、昨日の事をすっかり白状してしまいました。そして、頭をかきながら、
「つまんないなあ。せっかくいい事をしたのに、これで昨日の一日一善が零になっちゃった」
 と、ざんねんそうに言うのでした。
 一太郎君がお家に帰って、そのことを話しますと、お母さんが、さっそく北村君のところへお礼においでになりました。そればかりでなく、いつかこのことが先生のお耳にまではいってしまったのです。
 ある日、先生が教室で、近頃こんな感心な出来事があったといって、みんなにこの事をくわしくお話しになりました。そして、
「こんないい事をして、かくしていた北村君もえらいが、それを智恵で見つけだした明石君もえらいものだ。一太郎君は名探偵だ」と言って、たいそうおほめになったものですから、二人はうれしいような、はずかしいような気持で、思わず真赤になってしまいました。
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