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空中曲芸師

时间: 2022-08-09    进入日语论坛
核心提示:空中曲芸師 うららかに晴れわたった、春の日曜日の朝はやく、明石一太郎君は、田舎(いなか)の伯父(おじ)さんといっしょに、たん
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空中曲芸師
 うららかに晴れわたった、春の日曜日の朝はやく、明石一太郎君は、田舎(いなか)伯父(おじ)さんといっしょに、たんぼ道を歩いていました。
 きのうの土曜日の午後から、とまりがけで、田舎の伯父さんのうちへ遊びに来ているのです。田舎といっても、そこは東京都の中で、中央線の電車で行けるところですが、農学士の伯父さんは、そこの広い土地で、いろいろなめずらしい植物をそだてていらっしゃるのです。大きなガラスのおうちのような温室もあって、その中には南洋の植物がたくさんならんでいます。一太郎君は、そういうめずらしい植物を見たり、それについて伯父さんのお話をきいたりするのがすきでたまらないのでした。
 けさは、六時ごろに起きて、まだ朝ごはんもたべないうちに、伯父さんにさそわれて、近所のたんぼ道を散歩しているのです。青々としたたんぼの中を、細いきれいな小川がながれています。その小川の堤のようになった細道を、伯父さんが先にたち、一太郎君はそのあとを追うようにして歩いているのです。
 細道の両側には、朝露にぬれた草がおいしげっていて、それが足にさわるたびに、ひやっとつめたくて、なんともいえないすがすがしい心持です。
 二人はしばらく、だまって歩いていましたが、とつぜん、伯父さんがうしろをふりむいてにこにこしながら、
「一太郎、一つ謎を出そうか」
 と、おっしゃるのでした。
「ええ、出して下さい」
 一太郎君は、いつも伯父さんの謎はわけなくとけるので、今日もうまくといてみせるぞと、自信たっぷりで答えました。
「いいかい。自分のからだの何百倍もあるような広い川に、一人の力で、たった一時間か二時間のうちに、長い橋をかけるものがいるんだよ。それは人間じゃない。人間にはとてもそんなことはできやしない。だが、人間にたとえれば、東京の隅田川(すみだがわ)ぐらいの大きな川に、一人っきりで橋をかけるのと同じことなんだよ。そういうすばらしい大工事を、またたくまにやってのける生きものがあるんだ。いったい何だと思うね」
 一太郎君は、そんなえらいものが、人間のほかにいるんだろうかと、びっくりしてしまいました。そして、しばらくの間、いろいろと考えてみましたが、どうしてもわからないのです。
「伯父さん、僕、わかりません」
 正直にいって、ちょっと赤くなって、頭をかきました。
「ハハハ……、こんなやさしい謎が、智恵の一太郎にとけないなんて、今日はどうかしているね。それじゃ種あかしをしようか。なんでもないんだよ。ほら、あすこをごらん。あれがその橋なんだよ」
 伯父さんは、そういって、すぐそばの小川の上を指さしました。
「え、どれが?」
 一太郎君にはまだわからないのです。
「あのきれいな蜘蛛(くも)の巣が見えないのかい」
 いわれてみると一メートルほどのはばの小川の、むこう岸の木の枝へと、大きな蜘蛛の巣がはってあるのです。
 木の枝の上の方と、少し下の方とに、二本の丈夫な蜘蛛の糸が、小川を横切ってはりわたしてあって、そこの二本の糸の間に、あのからかさをひろげたような、蜘蛛の網が見えるのですが、それに朝露の玉が一めんについているものですから、まるで宝石をちりばめたように、きらきらと美しくかがやいているのでした。
「なんだ、橋をかける名人というのは、蜘蛛のことなんですか。でも、僕は蜘蛛っていう虫はあまりすきでないんです。あの恰好を見るとぞーっとするんです」
 一太郎君が顔をしかめていいますと、伯父さんは待っていたといわぬばかりに、
「お前が蜘蛛をこわがることは、よく知っているよ。だから、今日はお前に蜘蛛という虫のえらいところを、よく見せようと思ったのだ。
 この感心な虫が、なぜそんなにいやなのだね。なるほど蜘蛛は、網にかかった、はえだとか、あぶだとか、もっと大きな蝶なども、えじきにしてたべてしまうけれど、それは蜘蛛が悪者だからではない。神様がそういうくらしをするように、おこしらえになったからなのだ。蜘蛛は勇敢な猟師なのだよ。人間だって、鉄砲で猪や鹿をうったり、網で魚をとったりするじゃないか。蜘蛛はそういう猟師をしてくらすように生まれついた虫なんだよ。
 なんという熱心な猟師だろう。あの自分のからだの何百倍、何千倍とあるような大きな網を、一時間か二時間であんでしまうんだよ。そして、雀や、風なんかに網をやぶられると、一日に何度でもしんぼうづよく同じ網をはりなおすんだよ。お前にこんなまねができるかね。いや、どんなえらい大人にだって、こんなすばらしい仕事はなかなかできやしないんだよ。
 それにあの網のきれいなことをごらん。まるで定規とコンパスをつかってかいた模様のように美しくできているじゃないか。感心な虫だとは思わないかね」
 いわれてみますと、なるほどびっくりするほどえらい仕事をする感心な虫だということが、一太郎君にもわかってきました。
「まだそれだけじゃない。この虫はもっとえらいことをするんだよ。伯父さんが橋をかけるといったのは、あのむこうの枝から、こちらの枝にはってある二本のふとい糸のことなんだが、蜘蛛はどうしてあの二本の糸をかけると思うね。これは謎ではないが、なかなかむずかしい問題だよ。お前に考えられるかい。枝と枝の間には、蜘蛛のからだの何百倍というはばのある小川が流れているんだよ。人間でいえば、隅田川ぐらいの大きな川なんだ。
 蜘蛛には、この(ながれ)の早い川を泳ぎわたることなんか、とてもできやしない。といって、蝶やとんぼのように飛ぶこともできない。それなのに、蜘蛛の糸は川のむこう側から、こちら側へ、ちゃんとはってあるじゃないか。不思議だとは思わないかね」
 一太郎君は、それをきいてすっかり驚いてしまいました。
「ほんとだ。僕、今までうっかりしていたけれど、考えてみると、不思議ですね。蜘蛛っていうやつは、僕らの思いもおよばない力を持っているんですね」
「じゃ、一つ蜘蛛と智恵くらべをしてごらん。どうしてあの糸をはるんだか、お前の智恵で考えだしてごらん」
 伯父さんにそういわれますと、一太郎君はたいへんなことになったと思いました。なんだかこの智恵くらべでは、まけそうな気がしたからです。でも、一太郎君はいっしょうけんめいに頭をしぼって、やっと一つの答を見つけだしました。
「伯父さん、わかりました。蜘蛛はぶらんこをするんでしょう。木の枝の高いところへ糸のはしをくっつけて、腹から糸をたぐり出しながら、自分の糸にぶらさがって、だんだん下へおりてくるのです。そして、その糸が、うんと長くなった時に、ブランブランと風にのってぶらんこをはじめて、むこう側の木の枝へとりつくのでしょう」
「うん、それもやる。しかし、この場合じっさいは、そんなにうまく行くものじゃないよ。なにしろ川のはばは一メートルもあるんだからね。いくら身がかるいといっても、そんなに大きくぶらんこをゆするのは、むずかしいことだよ。
 もっとうまいやり方があるんだ。なんでもないことなんだよ。口でいうよりも、実物を見た方がいい、きっと、どこかにいま橋をかけようとしている蜘蛛がいるにちがいないよ。一つそいつをさがしてみようじゃないか」
 伯父さんはそういって、小川のふちを、立木のあるところでは立ちどまって、念入りに木の枝をしらべながら、前へ前へと歩いて行きましたが、およそ百メートルも歩いたころ、やっとそれが見つかったらしく、小川のむこう側の猫柳の木を指さして、
「ほら、ここにいた。ごらん、ちょうどいま、橋をかけようとしているところだよ」
 よく見ますと、その猫柳のなかほどの枝から、一本の目にもとまらないような、細い細い蜘蛛の糸が、一メートルぐらいの長さにのびて、それがそよ風にふかれて、フワフワと小川の上を越し、今にもこちらの側の木の枝にとどきそうになっているのです。
「わけはないだろう。糸だけをグングン出して、こうして風にふかせておけば、自分がぶらんこなんかするよりも、ずっとらくにこちらの岸にとどくわけだからね。蜘蛛の糸はごく軽いものだから、ちょっと風がふきさえすれば、あんなふうに横へ一文字になびくのだよ。
 糸のもとのところを見てごらん。きれいな女郎蜘蛛が、木の枝にとまって、うしろ足を糸の根元にかけて、じっと考えているだろう。ああして糸の先が、何かにひっかかるのを待っているんだよ。ひっかかれば、そのひびきが糸をつたって蜘蛛の足に感じるんだ。
 あ、うまくこちらの枝にとどいたよ。糸にはねばりけがあるので、くっついたら、もうはなれやしない。ほら、ごらん、女郎蜘蛛が動き出した。足で糸をひっぱって、ほんとうにこちらの枝にくっついているかどうかを、ためしているんだよ。
 見ててごらん。今にあの蜘蛛は、糸の橋をわたって、こちら側へやって来るよ。そして、二度も三度も行ったり来たりするんだ。それはね、あの糸をふとく丈夫にするためなんだよ。行き来しながら、たえず腹から糸を出して、はじめの糸にくっつけて、ふとくして行くんだ。あの一本の糸の橋が、網をつくる土台になるんだからね。できるだけ丈夫にしておかなければならないのだよ」
 二人はそこにしゃがんで、じっと蜘蛛のしぐさを眺めていました。伯父さんのおっしゃる通りです。蜘蛛は二三度行ったり来たりして、はじめの糸を丈夫にしておいてから、その糸を足場にして、少し下の方に、第二の橋をわたしました。それから、二本の橋の間に、ななめの糸を幾本もはって、外がこいをつくってしまいますと、そのまん中に、あのからかさをひらいたような、美しい網をあみはじめるのです。
 その網が半分ほどもできあがるまでには、一時間以上もかかりましたが、一太郎君は、その間、身動きもしないで、この小虫のすばらしい仕事ぶりに見とれていました。あきるどころか、見ていればいるほど、感心の度がふかくなって、おしまいには、それが蜘蛛ではなくて、人間の美しい曲芸師のようにさえ感じられてくるのでした。
 晴れわたった青々とした空を背にして、銀色に光る細糸の上で、びっくりするような空中曲芸をえんじている曲芸師――女郎蜘蛛は、だんだらぞめの衣裳を着て、その衣裳にはきらきらとかがやく金銀のかざりさえついているのです。まあなんという美しさでしょう。
「ハハハ……、すっかり感心しているね。どうだね、こいつはなかなかえらい虫だろう。お前は、こんな小さな虫に、これほどの力をおさずけになった神様を、すばらしいとは思わないかね」
 伯父さんの声に、一太郎君は、はっと夢をやぶられたように、ふりむきました。そして、うっとりとした顔で、
「ええ、僕、蜘蛛がすきになってしまいました」
 と答えるのでした。
「ほんとうに神様はすばらしい」
 一太郎君は心の中でくり返しました。すると、世界中がなんだか不思議なすばらしいことで一ぱいになっているように感じられて来ました。そして、この世の中が、きのうまでの二倍も、三倍も、十倍も、たのしいものに思われてくるのでした。
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