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いちじゅくの木

时间: 2022-10-14    进入日语论坛
核心提示:いちじゅくの木小川未明 年郎(としろう)くんと、吉雄(よしお)くんは、ある日(ひ)、学校(がっこう)の帰(かえ)りにお友(とも)だち
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いちじゅくの木

小川未明


 年郎(としろう)くんと、吉雄(よしお)くんは、ある()学校(がっこう)(かえ)りにお(とも)だちのところへ(あそ)びにゆきました。そのお(うち)には、一(ぽん)(おお)きないちじゅくの()があって、その()(えだ)()して(つく)った苗木(なえぎ)が、幾本(いくほん)もありました。
「この()()ってゆかない? 二、三(ねん)もたつと()がたくさんなるよ。」と、(とも)だちはいいました。
「ほんとう? そんなに(はや)く、()がなるの。」と、二人(ふたり)は、おどろきました。
「ほんとうさ、このいちじゅくは、とても(おお)きくて、うまいんだよ。」と、(とも)だちは、自慢(じまん)したのであります。
「そうかい、もらっていって、()えるから。」と、二人(ふたり)(おな)じくらいの苗木(なえぎ)を一(ぽん)ずつ、ぶらさげて、お(うち)(かえ)ったのでした。
 年郎(としろう)くんは、その(ちい)さい()をどこに()えようかと(かんが)えました。
(はたけ)にうえようかな、(つち)がいいから、きっと(はや)(おお)きくなるだろう。」といって、(はたけ)()えたのでした。
 吉雄(よしお)くんも、その()をどこに()えたらいいかなと(かんが)えました。
(にわ)のすみに()えてやろう。そう(はや)(おお)きくなりはしないだろうから、邪魔(じゃま)になりはしない。」といって、(にわ)のすみに()えました。
 (はたけ)()えた年郎(としろう)くんのいちじゅくは、日当(ひあ)たりがよくまた(かぜ)もよく(とお)ったから、ぐんぐんと()びてゆきました。翌年(よくねん)には、もう(えだ)ができて、(おお)きな()が、()(うえ)(くろ)(かげ)をつくりました。すると、小鳥(ことり)がきて()まりました。また(あたま)(うえ)(たか)く、(しろ)(くも)悠々(ゆうゆう)見下(みお)ろしながら、()ぎてゆきました。
 丹精(たんせい)して、野菜(やさい)(つく)っていられたお祖父(じい)さんは、
「おどろいたなあ。」と、おっしゃったけれど、()は、そんなことに関係(かんけい)なく、ぐんぐんと(おお)きくなりました。そして、三年目(ねんめ)からは、ほんとうに、()がたくさんなりました。
 吉雄(よしお)くんの()えたいちじゅくは、(にわ)のすみで、ほかの()(した)になって、()がよく()たらなかったので、いつまでたっても()がなりませんでした。
(わたし)を、こんなところに()えたんだもの。」と、()は、不平(ふへい)をいいつづけていました。
 ある(なつ)のこと、ちょうど休暇(きゅうか)()わりかけるころから、年郎(としろう)くんの(いえ)のいちじゅくは、たくさん()(むす)んで、それは紫色(むらさきいろ)(じゅく)して、()るからにおいしそうだったのです。
 ちょうど(あそ)びにきた吉雄(よしお)くんは、これを()て、びっくりしました。
「これは、いつか、もらってきた()かい?」
「ああ、そうだ。」と、年郎(としろう)くんは、(ほこ)らしげに(こた)えました。
「こんなに、(おお)きくなったのかなあ、そしてこんなにたくさん()(むす)んだのかなあ。」
(きみ)(うち)のは?」
(ぼく)のうちのは、まだ一つも()がならないよ。」と、吉雄(よしお)くんは、いいました。
「きっと、場所(ぱしょ)がいけないのだよ。」
場所(ばしょ)が?」
「これは、(つち)がよくて、()がよく()たるから、(はや)(おお)きくなったのだと、お祖父(じい)さんがいっていらしたよ。」と、年郎(としろう)くんは、いいました。これをきいて、吉雄(よしお)くんは、はじめて、自分(じぶん)()場所(ばしょ)(わる)かったのを(さと)ったのでした。
果物(くだもの)は、()のよく()たるところでなければ、よく(そだ)たないとお(とう)さんもおっしゃったよ。」
「じゃ、(ぼく)も、こんど日当(ひあ)たりのいいところへ()えかえてやろう。」といって、吉雄(よしお)くんは、自分(じぶん)のうちのいちじゅくが、くらべものにならぬほど、成長(せいちょう)のおそいのをかわいそうに(かん)じたのでした。
 吉雄(よしお)くんは、お(うち)(かえ)って、さっそく、(にわ)(かた)すみにあったいちじゅくの()を、(はたけ)(うつ)してやりました。
(ぼく)がわるかったのだ。さあ、(はや)(おお)きくなって、兄弟(きょうだい)に、()けてはならない。」と、いちじゅくの()()かって、いいました。
 吉雄(よしお)くんは、それからは、よく()注意(ちゅうい)して、肥料(ひりょう)をやったりしました。
 すると、吉雄(よしお)くんのいちじゅくの()も、ぐんぐん(おお)きくなってゆきました。そして、(はや)くも、()くる(とし)には、みごとな()(いく)つもついたのであります。
 これを()て、吉雄(よしお)くんは、(おも)いました。
 みんな(おな)じような(あたま)()って、()まれてきながら、よくできる(ひと)になり、また、そうでない(ひと)となるのは、やはり、この二(ほん)のいちじゅくの()のように、どこかに故障(こしょう)があったにちがいなかろう? 自分(じぶん)(ちから)でできることは、よく反省(はんせい)して、注意(ちゅうい)(おこた)ってはならない――。
 ほんとうに、あのとき、吉雄(よしお)くんが、自分(じぶん)()はだめだといって、そのままにしておいたり、もしくは、()ててしまったら、どうでしたでしょう。かわいそうに、その()は、ついに、一つの()すら(むす)ばずにしまったにちがいありません。

 

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