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白い影(2)

时间: 2022-11-13    进入日语论坛
核心提示: そこへ、ちょうど隠居いんきょが通とおりかかりました。二人ふたりの女おんなは、おじいさんを呼よび止とめました。「おじいさ
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 そこへ、ちょうど隠居いんきょとおりかかりました。二人ふたりおんなは、おじいさんをめました。
「おじいさん、あんたは、しろおとこをごらんなさったのですか。」と、一人ひとりおんなはたずねました。
「めっそうな、わたしたら、いまごろは破産はさんせんけりゃならん。しろい、気味きみわるつきをしたおとこ見物人けんぶつにんなかじって、じっとしていたということでな。なんでもそのおとこたものは、みんなかぶそんをしたというはなしじゃ。」と、おじいさんはいいました。
あるまちかどのところで、電車でんしゃ自動車じどうしゃとが衝突しょうとつしました。自動車じどうしゃはもはや使用しようされないまでにこわされ、電車でんしゃもまた脱線だっせんして、しばらくは、そのあたりは雑踏ざっとうをきわめたのであります。そして、怪我人けがにんもできましたので、電車でんしゃ自動車じどうしゃ運転手うんてんしゅは、警察けいさつへいってしらべられることになりました。
「どうして、衝突しょうとつをしたのだ?」といって、警官けいかんがききますと、自動車じどうしゃ運転手うんてんしゅは、そのときのことをおもかべるようなつきをして、
晩方ばんがたでありました。両側りょうがわには、燈火ともしびのついたころあいです。電車でんしゃ停留場ていりゅうじょうには、たくさんひとっていました。わたし注意ちゅういをして、それらのひとたちをけながらはしっていますと、さきへ、ちいさなしろ着物きものたおじいさんが、ちょこちょことてきたから、わたしはとっさのことですし、たいそう狼狽ろうばいしました。そのまえまで、そんな老人ろうじんあるいていることにづかなかったのです。わたしはひくまいとおもって、全速力ぜんそくりょくわきほうへそれますと、そのとたんにやってきた電車でんしゃ衝突しょうとつしたのでした。」ともうしました。
「その着物きもの老人ろうじんはどうしたか?」と、警官けいかんはききました。
不思議ふしぎにも、そのあいだ老人ろうじん姿すがたえたように、どこへいってしまったものかえなくなりました。」と、運転手うんてんしゅこたえました。
「おまえのた、しろ着物きもの老人ろうじんというのは、大男おおおとこではなくちいさかったのか?」
警官けいかんは、これまで、おおきなしろおとこが、かげのように線路せんろうえって、いくたびか汽車きしゃ脱線だっせんさしたり、まためたりしたといううわさをいていましたから、いまちいさなしろおとこだといて、異様いようかんじたからであります。
わたしたちのたのは、しろちいさなおじいさんでした。」と、両方りょうほう運転手うんてんしゅは、はっきりとこたえました。
「いつ、そんなにちいさくなったのか?」と、警官けいかんは、くびをかしげました。
「そのことは、わたしたちに、わかりません。」と、運転手うんてんしゅは、おそるおそるこたえました。
このしろかげが、このまちはいってきたことは、どんなにみんなの生活せいかつうえ不安ふあんあたえたでありましょう。ほんとうに、ペストや、コレラがはいってきたよりもおそろしい、防禦ぼうぎょのできない事実じじつであったからであります。
しかし、しろかげが、あるひとえて、あるひとえないという理由りゆうはない。それをひとは、気候きこう関係かんけいで、また神経衰弱しんけいすいじゃくにかかったからではなかろうかというような解釈かいしゃくをしたひとがありましたが、実際じっさいにおいて、づくひとづかないひととの相違そういがあるということに、ほぼ輿論よろんはきまったのであります。
そして、いちばんこまったことには、なにか自分じぶん不注意ふちゅういで、失敗しっぱいをしたものが、しろかげたからといって、ほんとうは、もしないのに、すべての過失かしつしろかげしてしまったことでありました。
しろかげをつかまえることにしよう。」
まち人々ひとびとは、こうはなしをきめたのであります。そして、その正体しょうたいとどけようとおもいました。
まだあつい、なつ時分じぶん野原のはらしろおとこがさまよっているときは、おおきなくもつくばかりのからだでのそりのそりと、真昼まひる線路せんろあるいたものであるが、まちはいってからは、小男こおとことなって、晩方ばんがたからよるにかけて、おお人混ひとごみのなかかけるようになりました。それで、らえることは困難こんなんであったのです。しかし、だんだん白地しろじ浴衣ゆかたひとすくなくなって、みんな人々ひとびとくろっぽい着物きものるようになってから、一ぽうでは、やっとしろかげさがすのに都合つごうがよくなりました。
幾日いくにちかたちましたけれど、まだ、しろおとこらえたものはありませんでした。なんでも、このごろは、しろおとこは、つきのいいさむばんに、まち屋根やねから、屋根やねつたわって、ほしのようにんでいるのをたというものが、あちらこちらにありました。
地震じしんがあるのではなかろうか?」と、一は、こんなうわささえしたものがあった。またよるはなるべくそとずに、しろかげないものと、はやくからめてしまうような臆病者おくびょうものすくなくはなかったのであります。
すると、こんどは、いままでとはまったくちがったうわさがひろまりはじめました。
今年ことしは、いままでにないことだ。暴風ぼうふうもこず、こめはよくできて豊年ほうねんだ。むかしひとはなしに、しろかげはいってきたとし豊年ほうねんだということだ。」というようなうわさがたちはじめると、
大河おおかわにかかっている鉄橋てっきょうもとがくされていたのをこのごろ発見はっけんした。しろかげ線路せんろうえあるいていたのは、それを注意ちゅういするためだった。」と、いうようなせつが、あとからあとからつづいてこったのであります。
まち新聞しんぶんは、またしろかげ科学的かがくてき批評ひひょうをしていました。ある理学士りがくしは、しろおとこのようにえたのは、水蒸気すいじょうきのどうかした具合ぐあいで、人間にんげんかたちえたのであろう。あきからふゆにかけては、毎夜まいよのごとく、つきのいいばんには、しろいもやがいろいろのかたちのぼるものだ。また、なつ野原のはらた、しろ大男おおおとこというのも、おそらくどう一の現象げんしょうで、くものようなものではなかろうかといって、なんでもなく、それを解決かいけつしていました。
最初さいしょしろおとこて、汽車きしゃ脱線だっせんさしたばかりでなく、自分じぶん負傷ふしょうした運転手うんてんしゅは、神経衰弱しんけいすいじゃくから、むだえたのだと判断はんだんされたものの、とにかく汽車きしゃ脱線だっせんさした責任せきにんから退職たいしょくさせられて、いまでは、まちちかみなと汽船問屋きせんどんやつとめていたのであります。
もうあきすえのことでありました。今夜こんやにも、ふゆがやってきそうに、そらいろんでうみいろはさえていました。野原のはらなかはやしいろづいて、こずえからは、黄色きいろがひとりでにこぼれるように、ほろほろとちていました。また、まち並木なみきは、たいていちつくしてしまって、くろ小枝こえださきあおそらしたこまかく、あみのようにいてえていました。
このみなとから、南洋なんようほうへゆくふねは、今夜こんやてゆくのが今年ことしじゅうの最終さいしゅうでありましたが、あまりそれにはってゆくきゃくもなかったのです。
夕陽ゆうひは、おかまちしずみかかっています。そのとき、汽船きせん待合室まちあいしつに、いつかの運転手うんてんしゅは、一人ひとり不思議ふしぎおんなをみとめました。
うつくしい、かみのちぢれたむすめが、えるようなあかマントをて、たった一人ひとりベンチにこしをかけて、かなしそうなつきで、うみうえをながめていたのです。そして、むすめは、なかに、ちいさいしろなねこをいていました。ひとちかづくと、そのしろいねこはえたように、マントのしたかくれてしまいました。そして、だれもそばにいなくなると、また、しろなねこは、むすめなかはいってあそんでいたのでした。
「このまちさわがしたしろ悪魔あくまは、こいつでなかったか?」と、いつか負傷ふしょうした運転手うんてんしゅは、ふとこころおもいました。そして、今日きょうふねっておきていってしまったら、もうこのまち不安ふあんはなくなるだろうとおもいました……。はたして、それからは、もうしろかげたものはありませんでした。
 
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