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とうげの茶屋(1)

时间: 2022-11-27    进入日语论坛
核心提示:とうげの茶屋小川未明とうげの、中なかほどに、一けんの茶屋ちゃやがありました。町まちの方ほうからきて、あちらの村むらへいく
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とうげの茶屋

小川未明


とうげの、なかほどに、一けんの茶屋ちゃやがありました。まちほうからきて、あちらのむらへいくものや、またあちらのむらから、とうげをして、まちほうていくものは、この茶屋ちゃややすんだのであります。
ここには、ただひとり、おじいさんがんでいました。おとこながら、きれいにそうじをして、よくきゃくをもてなしました。おちゃをいれ、お菓子かしをだしたり、またさけむものには、ありわせのさかなに、さけのかんをして、だしました。おじいさんは、女房にょうぼうなれてから、もうながいこと、こうしてひとりで、商売しょうばいをしていますが、みんなから、したしまれ、ゆききに、ここへるものが、おおかったのであります。おじいさんは、いつも、にこにこして、だれかれ差別さべつなく、きゃくをもてなしましたから、だれからも、
「おじいさん、おじいさん。」と、いわれていました。
おじいさんも、こうして、いそがしいときは、ちいさなからだをくるくるさして、かんがえごとなど、するひまはありませんが、ひとのこないときは、ただひとり、ぼんやりとして、みせさきにすわっているのでした。すると、いつとなしに、眠気ねむけをもよおしていねむりをするのでした。
もっとも、だんだんとしをとると、こうして、ひとりでじっとしているときは、をあけても、ふさいでも、おなじように、いつもゆめているような、また、うつつでいるような、ちょうどさけにでもっているときのような、気持きもちになるのです。
おじいさんも、このごろ、こんなようながつづきました。戸外こがいは、秋日和あきびよりで、空気くうきがすんでいて、はるかのふもとをとお汽車きしゃおとが、よくきこえてきます。どこか、もりく、とりこえが、にとるように、みみへとどきます。
おじいさんは、汽車きしゃおとがかすかになるまで、みみをすましていました。やがて、あちらのやまを、海岸かいがんほうへまわるとみえて、一せい汽笛きてきが、たかそらへひびくと、くるまおとがしだいにかすかにえていきます。
「もう、汽車きしゃまどから、おきしろなみえろるだろう。」
おじいさんは、自分じぶんが、そのくるまっているようなでいました。
また、わか時分じぶんやまたきぎをとりに、せがれをつれていって、ちょうどはじめたきのこをたくさんとったことをおもしました。あのときの、つめたい地面じめんただよちかけたの、なつかしいかおりが、いまも鼻先はなさきでするようです。かえると、おばあさんも、まだ達者たっしゃだったから、すぐなべへれて、にかけました。
いまく、とりこえが、そのときのことを、しみじみとおもさせるのでした。
ゆめともなく、うつつともなく、おじいさんが、じっとしてたのしい空想くうそうにふけっていると、あさ、このまえとおってまちむら人々ひとびとが、もうようをたしてもどるころともなるのでした。
この、のどかな、ゆったりとした気持きもちは、おじいさんとやまおなじでありました。むらさきあかと、みねたにうつくしくいろどられていました。そして、まんまんと、あおみわたるそらしたで、しずかにかんがんでいるようにえました。こうして、いい天気てんきのつづくあとには、ふゆむかえるすさまじいあらしがくるのを、あらかじめらぬのではないけれど、すぎしの、はるからなつへかけての、かがやかしかったおもに、こころうばわれて、みじかざしのうつるのをわすれているのでした。まして、このとき、おじいさんとやましずかな心持こころもちをやぶるものは、なにひとつなかったのです。
ところが、ある、こんなうわさが、茶屋ちゃややすんだむらひとから、おじいさんのみみへはいりました。
「おじいさん、ここへ、このあいだ、あめさんがって、たいそうったというじゃないか。」
「ああ、いい気持きもちで、かえらした。」と、おじいさんは、にこにこして、こたえました。
「どうりで、きつねにばかされたって。なんでも、一晩ひとばんじゅうはやしなかで、かさしたということだ。」
「えっ、あめさんがかい。」と、おじいさんは、びっくりしました。
まちへいくみちようとおもって、おなじみちをなんべんも、ぐるぐるまわっているうちに、がさめると、西山にしやまはやしなかで、ていたというこった。」と、むらひとはいいました。
そのとき、おじいさんは、あめが、いい機嫌きげんになって、子供こども時分じぶんのことなどをはなして、
「この西にしほうやまへ、子供こどものころ、きのこをとりにきたことがあった。」と、さもなつかしげに、あちらをながめて、あのやまでなかったか、いや、もうすこしこちらのやまであったとかいっていたのをおもしました。っているので、しぜんとあしが、そのほういたのかもしれぬと、そう、そのときのようすを村人むらびとはなすと、
「なるほど、そんなことかもしれぬ。多分たぶんそうだろうよ。いまどき、きつねにばかされるなんて、まったくばかげた、おかしなはなしだものな。」
その村人むらびとも、そういって、わらいました。
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