不思議な鳥
小川未明
一
車屋夫婦のものは淋しい、火の消えたような町に住んでいる。町は半ば朽ちて灰色であった。
町には古い火の見
「ああ、
「日が
と老人は
「おお、怖くない。」といった。
この老夫婦には子もなければ、孫もなかった。夕飯の膳には、白い湯気が微かに上って、物静かに済むと、暗いランプの光りが
「夜だぞ、こうやって休め。」といって、老人は風呂敷を持て来て籠の上から掛けてやる。風呂敷を掛けられると、又急に籠の中は薄暗くなって、鳥の動くのが
老人は
「此処 と出雲崎とは…… 竿させば届く――竿をね……。」
老人はこの歌を聞いて、この人は浜へ帰るのだと思った。――こう考えていると、又自分が若い時分、春の海を見ながら、赤い崖の下を通った時の記憶などを呼び起した。振向いて婆さんを見ると、微かに寝息の音が聞かれた……。