七宝町(しつぽうちよう) (愛知県海あ部ま郡)
工芸品が町名になったという珍しいパターン
愛知県西部、名古屋市の西に接する海部郡にあるのが七宝町である。
町名になっている「七宝」とは、いわずもがな、工芸品を意味しており、当地での生産が盛んだったことから付いた地名である。
しかし、焼物や織物など、生産地名が付いたものが特産品名になっているケースは多いが、その逆という例は珍しい。
これは、企業城下町でもある豊田市が、会社名(トヨタ自動車)をそのまま自治体名にしたというエピソードをもつ、愛知県ならではの命名かもしれない。
ところで、その七宝焼は、原形が古代エジプトで考案されたもので、インドから中国、朝鮮半島を経て、わが国に伝来した技法だとされる。
ただし、かつて遠とお島しま村と呼ばれたこの一帯で生産されているのは「尾張七宝」という特産品として扱われ、十九世紀なかばから伝承されている技術だ。これは、オランダ船で運ばれてきた七宝焼をもとに、研究されたものだという。
この七宝焼に関する碑は、町内の二か所に建てられており、一つは技術開発に功績のあった人たちを顕彰するもの。そしてもう一つは、「七宝焼原産地」と刻まれた道標で、一八九五(明治二十八)年の建立というが、この道標にはローマ字表記が添えられている。これは、当時すでに外国人が買い付けに訪れるほど名を知られた工芸品だったことを、うかがわせるものである。