百姓じいさんとテング
老爷爷和天狗
むかしむかし、百姓(ひゃくしょう)のおじいさんが、ウマを連れて歌いながら山道を歩いていました。
很久很久以前,岁入无惑之年的耕者,牵着马哼着歌依山道而行。
心楽しや
山坂行けば
ウマの鈴までこだまする
エーイソラ ホイホイ
山道畅心行步,马铃亦为之响彻。
すると向こうの方から、ズシンズシンと大きな足音を立てながら、大テングがやって来ました。
走着走着,并着从前方传来很大的足音,大天狗也随之出现了。
その大テングの鼻ときたら、おじいさんの腕ほど長くて大きく、顔ときたら、塗り立ての神社の鳥居より、まっ赤です。
那个大天狗的鼻子,要比老者的手臂还长,脸要比神宫的鸟居更赤。
大テングとおじいさんは、細い山道でぶつかりました。
大天狗与老者在细窄的山路上撞到了一起。
「こら、じいさま。道をよけろっ!」
喂,老人家,避让一下!
大きな声の大テングに、おじいさんは負けじと、
面对大小声的大天狗,老者亦不示弱。
「よけろと言うたって、ここはおらが道じゃ。おまけに、おらこの通り、ウマと二人連れじゃ。お前がよけろ」
と、大テングを睨みつけます。
就算你喊我让,这条路我亦在走,而且我还牵的有马,要也是你让,老者睨而视。
「ヒヒ、ヒヒーン!」
马的嘶喊声!
ウマもないて、おじいさんの応援です。
马亦鸣啼为老者出声。
「このじじいめ。つべこべぬかすと、つまんで食うてしまうぞー!」
老杆子,批批赖赖,我就把你捉了吃了!
「そうかい。おらもこの年、食われて死ぬのは怖くないが、お前に食われる前に、一つ見たい物があるんじゃ」
这样子啊,我也活这么久了,大不了一死,我何惧之有,唯死之前,有一遗愿。
「何じゃい、それは」
怎么说。
「テングは、誰でも術という物を使うそうじゃが、本当かいのう」
只要是天狗,就都会术法,真有此事?
「ワハハハハッ。わしはこれでも、テングの頭じゃ。術ぐらい使えんでなんとする」
哈,我怎么也是天狗之首脑,何来不会术法之有?
「そうかい。テングいう物は、どこのテングでも天まで大きゅうなれるというが、お前さまは、なれるかね」
这样子啊,要是天狗,那个天狗都可以变得跟天一样大,你能吗?
「天まで大きゅうなる? そんな事が出来んで、どうなる」
我要是可以又怎样?
「そうかのう。じゃあ、おらが食われる前に、ちょっくら見せてもらおうか。あの世への話の種というもんじゃ」
没什么,我只是想死之前拜见一下,死的路上好有个话题。
「よし。よう見とれっ」
好吧,好甚看到。
そこで大テングは鼻を上に向けて、ゴォーーッと息を吸い込みました。
天狗仰天纳气。
すると、グングングングン、大テングの背が伸びて、とうとう雲を突き抜けてしまいました。
随之,背伸势如雨后春笋,破风穿云。
そこでおじいさんはニヤリと笑い、いかにも感心した様に言いました。
老者内心窃喜,姑且算是拜服的样子言。
「テング様、テング様。ようわかったから、元に戻って下され」
天狗尊,天狗尊,可以了,我算是彻底了解了,你快变回来吧。
すると大テングは、シューッと息を吐いて、元の大きさに戻りました。
进而,天狗旋风吐息,变到原来的大小。
「どうじゃ、じいさま。ビックリしたろう。さあ、食うてやるか」
怎样,老人家,惊艳吧,来,我要吃你了。
と、手を伸ばす大テングに、おじいさんはカラカラと笑って、
对面天狗伸手之势,老者笑言,
「そんな事言うても、テング様が天まで大きゅうなるのは、どこのテング様でもやる事でねえか。お前様は、さっきテングの頭と言うたが、いくら頭でも小そうなるこたぁ出来まい」
纵使化天之高,那个天狗亦能安然为之,你言你为天狗司掌,即便如此,也变不了小。
「なにっ。わしは日本一のテングじゃ。大きゅうばかりなれて、小そうはなれん、そんなケチなテングじゃないわい。見とれ。今見せてやるわ」
哈,我既言天下第一人,无法收化之如之辈,遑并论之,看好了。
大テングはそう言うて、フーッと息を吐き出しました。
大天狗如所言, 旋风吐气。
するとドンドン小さくなっていって、おじいさんの小指ほどになってしまいました。
随即次第变得只有老人家小指头那么大了。
そこでおじいさんは、ヒョイと大テングを手の平に乗せて、
老人家撑掌托载大天狗。
「よう。もっと小さく、もっと小さく。そうそう」
对头,再小一下,再小一下,对对对。
ついに大テングは、豆粒の様に小さくなってしまいました。
终究大天狗就只有豆颗那么大一个了。
「かかったな」
无谋啊!
おじいさんは大テングをつまむと、ポイと口の中ヘ放り込んで、ゴクンと飲み込んでしまいました。
老人家托起大天狗,往嘴里一送,一口吞落肚了。
そして、
随之,
そよら そよらと
たてがみなでて
吹くや春風 里までも
エーソラ ホイホイ
春风徐,鬣轻抚,一路入乡邑。
歌いながらウマを引いて、家の方へ帰って行きました。
哼歌牵马,依屋而归。