聴き耳ずきん
顺风耳头巾
むかしむかし、周りをグルッと山で囲まれた山奥に、一人のおじいさんが住んでいました。
很久很久以前,在周围被山包围的深山里住着一个老爷爷。
おじいさんは毎日朝になると、しばを入れるしょいこを背負い山へ入って行きました。
老爷爷每天一到早上,就背着装柴的篮子进山去了。
そして、一日中しばを刈っているのです。
一整天都在打柴。
今日もしばを一杯背負い、山から出て来ました。
今天也装满了篮子,从山上出来了。
「さて、ボツボツ帰るとするか。うん? あれは何じゃ?」
“那么,要回去了。嗯?那是什么?”
おじいさんが帰ろうとすると子ギツネが一匹、一生懸命木の実を取ろうとしていました。
老爷爷正要回去的时候,有一只小狐狸正在拼命地摘树上的果实。
「はて、キツネでねえだか」
「咦,这不是狐狸吗?」
この子ギツネ、足が悪いらしく、いくら頑張ってもうまく木の実が取れません。
这只小狐狸,脚好像不好,无论怎么努力都摘不到树的果实。
「よしよし、わしが取ってやろう。・・・よっこらしょ。さあ、これをお食べ。それじゃあ、わしは行くからな」
“好的好的,我来摘吧。……好的。来,吃这个吧。那我就回去了。”
子ギツネは、おじいさんの親切がよほど嬉しかったのか、いつまでもいつまでも、おじいさんの後ろ姿を見送っていました。
小狐狸也许是因为爷爷的亲切而感到相当高兴,一直永远目送着爷爷的背影。
そんなある日、おじいさんは町へ買い物に出かけましたが、帰りがすっかり遅くなってしまいました。
有一天,老爷爷去街上买东西,回来的时候已经很晚了。
「急がなくては」
“我得抓紧时间。”
すっかり暗くなった日暮れ道をおじいさんが急ぎ足でやってきますと、丘の上で子ギツネが待っていました。
老爷爷急急忙忙地走在天黑的日落路上,小狐狸在山丘上等着。
「あれまあ、こないだのキツネでねえだか」
“哎呀,这不是前几天的狐狸吗?”
何やら、しきりにおじいさんを招いている様子です。
好像是不停地邀请老爷爷的样子。
おじいさんは、キツネの後をついて行きました。
老爷爷跟着狐狸走了。
子ギツネは悪い足を引きずりながら、一生懸命におじいさんをどこかへ案内しようとしています。
小狐狸拖着不好的脚,拼命地想把爷爷带到什么地方去。
ついたところは、竹やぶの中のキツネの住みかでした。
到达的地方是竹林中狐狸的住处。
「ほう、ここがお前の家か」
「嗬,这就是你的家吗?」
キツネの家にはお母さんギツネがおりましたが、病気で寝たきりの様です。
狐狸的家里有一只母狐狸,因为生病而卧床不起。
お母さんギツネが、何度も何度もおじいさんにおじぎをしています。
狐狸妈妈一次又一次地向爷爷鞠躬。
息子を助けてもらったお礼を、言っている様に見えました。
看起来像是在说帮助儿子的感谢。
そのうち、奥から何やら取り出して来ました。
然后,从里面拿出了什么。
それは、一枚の古ぼけたずきんでした。
那是一块陈旧的小布。
「何やら汚いずきんじゃが、これをわしにくれるというのかね。では、ありがたく頂いておこう」
“这是什么脏兮兮的布,你要给我吗?那我就收下了。”
おじいさんは、お礼を言ってずきんを受け取ると、元来た道を一人で帰って行きました。
老爷爷谢了谢,收下了礼物,就一个人走原来的路回去了。
子ギツネは、いつまでもおじいさんを見送りました。
小狐狸一直为老爷爷送行。
さて、あくる日の事。
那么,第二天的事。
おじいさんが庭でまきを割っていますと、ヒラリと、足元に何かが落ちました。
老爷爷在院子里劈柴的时候,突然脚下掉了什么东西。
「これはゆんべ、キツネからもらったずきんじゃな。・・・ちょっくらかぶってみるか」
“这是从狐狸那里得到的。……戴上看看吧。”
おじいさんはずきんをかぶって、またまき割りを始めました。
老爷爷戴上头巾,又开始劈柴了。
すると、
然后
「家の亭主ときたら、一日中、巣の中で寝てばかり。今頃は、すっかり太り過ぎて、飛ぶのがしんどいなぞと言うとりますの」
“说起家里的丈夫,整天都在窝里睡觉。现在已经发胖了,飞起来很累。”
「ほう、痩せのちゅん五郎じゃった、おたくの亭主がのう」
“哦,我家丈夫是瘦五郎。”
何やら聞いた事もない話し声が、おじいさんの耳に聞こえて来ました。
老爷爷的耳朵里不晓得为什么出现这些。
「はて、確かに話し声がしたが、誰じゃろう?」
“嗯,确实有说话的声音,是谁呢?”
家の中をのぞいて見ましたが、誰もいません。
往家里看了看,但是没有人。
「裏林のちゅん吉が、腹が痛くてすっかり弱っとるそうじゃ」
“听说里林有只鸟肚子痛,没力气。”
「それは、木の実の食べ過ぎじゃあ」
“那是因为树上的果实吃多了。”
おじいさんは、また声に気がつきました。
老爷爷又注意到了声音。
「おかしいのう。誰か人がいるようじゃが、・・・やっぱり誰もおらん」
“好奇怪啊。好像有人在……果然没有人。”
おじいさんは家をグルリと一回りして、ヒョイと上を見上げました。
老爷爷在家里转了一圈,忽地往上看。
「うん? もしかしたら、このずきんのせいでは」
“嗯?说不定是因为这条头巾。”
おじいさんは、ずきんを脱いだりかぶったりしてみました。
老爷爷试着脱下和戴上头巾。
「やはりこれか」
“果然是这个啊。”
キツネがくれたこのずきんは、これをかぶると動物や草や木の話し声が聞こえるという、不思議なずきんだったのです。
狐狸给我的这个小布,戴上这个就能听到动物、草、树的说话声,真是不可思议。
おじいさんはキツネがこんなに大切な物を自分にくれた事を、心からうれしく思いました。
老爷爷很高兴狐狸给了自己这么重要的东西。
さて次の日から、おじいさんは山へ行くのがこれまでよりも、もっともっと楽しくなりました。
从第二天开始,老爷爷上山比以前更开心了。
ずきんをかぶって山へ入ると、小鳥や動物たちの話し声がいっぱい聞こえてきます。
戴着头巾进山,就能听到小鸟和动物们的说话声。
枝に止まって話している小鳥。
停在树枝上说话的小鸟。
木の上で話しているリス。
树上说话的松鼠。
みんな楽しそうに、話しています。
大家都很开心地在说话。
おじいさんは山でしばを刈りながら、小鳥や動物のおしゃべりを聞くのが楽しくて仕方ありません。
老爷爷在山上一边打柴,一边听小鸟和动物的聊天,真是太开心了。
「わたしゃ、喉を傷めて、すっかり歌に自信がなくなっちまった」
“哇,喉咙受伤了,完全对唱歌没有自信了。”
「そんな事ございませんよ。とっても良いお声ですわ」
“没有那样的事,是非常好的声音。”
「そうかな、では、いっちょう歌おうかな」
“是吗,那就唱一首吧。”
何と、虫の話し声まで聞こえるのです。
怎么,连虫子的说话声都能听到。
おじいさんはこうして、夜通し虫たちの歌声に耳を傾けていました。
老爷爷就这样,彻夜倾听着虫子们的歌声。
一人暮らしのおじいさんも、これで少しもさびしくありません。
一个人生活的老爷爷,这样一点也不寂寞。
そんなある日の事。
有一天。
おじいさんが山からしばを背負って下りて来ますと、木の上でカラスが二羽、何やらしゃべっています。
老爷爷背着山上的稻草下来,树上有两只乌鸦在说什么。
おじいさんは聴き耳ずきんを取り出してかぶり、耳をすましますと、
老爷爷拿出头巾戴上,侧耳倾听
「長者(ちょうじゃ)どんの娘がのう」
「富翁大人的女儿。」
「そうよ、もう長い間の病気でのう。この娘の病気は、長者どんの庭にうわっとるくすの木のたたりじゃそうな」
“是啊,已经病了很长时间了。这姑娘的病是因为院子里的一棵树。”
「くすの木のたたり? 何でそんな」
“那是什么树?为什么会这样?”
「さあ、それはくすの木の話を聞いてみんとのう」
“听说是被树诅咒了。”
カラスのうわさ話を聞いたおじいさんは、さっそく長者の家を尋ねました。
老爷爷听了乌鸦的闲话,立刻去了富翁家。
長者は、本当に困っていました。
富翁真的很着急。
一人娘が、重い病気で寝たきりだったからです。
因为独生女得了重病卧床不起。
おじいさんはその夜、蔵の中に泊めてもらう事にしました。
爷爷那天晚上住在仓库里。
ずきんをかぶって、待っていますと。
戴着头巾等着。
「痛いよー。痛いよー」
“好痛啊。好痛啊。”
蔵の外で、くすの木の泣き声らしきものが聞こえます。
在仓库外面,能听到像是树木的哭声。
くすの木に、なぎの木と、松の木が声をかけました。
柳树和松树向那棵树打招呼。
「どうしました、くすの木どん?」
“怎么了,这棵树是什么?”
「おお、こんばんは。まあ、わたしのこの格好を見て下され。新しい蔵がちょうど腰の上に建ってのう。もう、苦しゅうて苦しゅうて」
“啊,晚上好。哎呀,请看我这身打扮。新的仓库正好卡在腰上。让我很痛苦。”
「それは、お困りじゃのう」
“那可不行。”
「それでのう、わしは、こんな蔵を建てた長者どんを恨んで、長者どんの娘を病気にして困らせているんじゃ」
“所以,我恨建了这样的仓库的富翁老爷,让富翁老爷的女儿生病了。”
蔵の中のおじいさんは、くすの木たちのこの話を聞いて、すっかり安心しました。
仓库里的老爷爷听了灌木们的这番话,完全放心了。
(蔵をどかしさえすれば、娘ごの病は必ず良くなる)
(只要挪开仓库,女儿的病一定会好的)
次の日。
第二天。
おじいさんは、長者にこの事を話しました。
老爷爷把这件事告诉了富翁。
長者は、すぐに蔵の場所を変える事にしました。
富翁决定马上换地方建仓库。
それから何日かたって、蔵の重みが取れたくすの木は、元気を取り戻して青い葉をいっぱいに茂らせたのです。
之后过了几天,仓库的重量减轻了的那棵树恢复了精神,长满了绿色的叶子。
長者の娘も、すっかり元気になりました。
富翁的女儿也完全恢复了健康。
長者は大喜びで、おじいさんにいっぱいのお宝をあげました。
富翁欣喜若狂,给了爷爷满满的宝物。
「これは、キツネがくれたずきんのおかげじゃ。キツネの好物でも買ってやるべえ」
“这都是多亏了狐狸给我的头巾,要给狐狸买它喜欢的东西。”
おじいさんはキツネの大好きな油あげを買って、山道を帰って行きました。
老爷爷买了狐狸最喜欢的油豆腐,走回山里。