一休のくそとなれ
むかしむかし、一休さん(いっきゅうさん)と言う、とんちで評判の小僧さんがいました。
一休さんがまだ小さい頃、始めて修行をしていたお寺の和尚(おしょう)さんは、ひどいけちん坊でした。
おまけにお寺では食べてはいけない、塩ザケをおみそ汁の中へ煮込んで、
「ああ、うまい。体が温まるのう」
と、平気で食べているのです。
当然、一休さんたち小僧には、一切れも分けてはくれません。
しかも塩ザケを食べる時の、和尚さんの言葉がとても気どっていました。
「これなる、塩ザケよ。
そなたは、枯れ木と同じ。
いくら助けたいと思うても、今さら生きて海を泳ぐ事など出来ぬ。
よって、このわしに食べられ、やすらかに極楽(ごくらく)へまいられよ」
それを聞いた一休さんは、
「ふん、自分で料理しておきながら、何が極楽だ」
一休のくそとなれ02
と、他の小僧たちと腹を立てていました。
ある日の事。
一休さんは朝のお務めをすませると、魚屋へ走って行って大きなコイを一匹買って来ました。
そしてお寺へ戻ると、まな板と包丁を取り出して、なベをかまどにかけました。
それを見た和尚さんは、ビックリして言いました。
「一休! お前、そのコイをどうするつもりぞ!」
「はい。
このコイを、食べます。
この前、和尚さんに教わったお経を唱えますので、聞いて下さい」
「お前、正気か!」
「はい、正気でございますとも」
一休さんは少しもあわてず、コイをまな板へ乗せてお経を唱えました。
「これなる、生きゴイよ。
そなたは、この一休に食べられて、くそとなれ、くそとなれ」
唱え終わると一休さんはコイを切り身にして、なベに放り込みました。
「むむっ。・・・『くそとなれ』か」
和尚さんは、今まで塩ザケに向かって『極楽へまいられよ』と言っていたのが、恥ずかしくなりました。
『くそとなれ、くそとなれ』
と、本心を言った小さな一休さんに、してやられたと思ったのです。
(こいつはきっと、大物になるぞ。わしの所ではなく、もっと良い和尚の所にあずけるとするか)
「それでは、頂きます」
一休さんは和尚さんの顔色をうかがう事なく、他の小僧たちと一緒にコイこくをおいしそうに食べました。