「泣く女」はパブロ・ピカソの絵の題。画家の愛人ドラ・マールがハンカチを噛みながら泣き叫ぶ様子を、派手派手しい色でグロテスクに描いている。この句は「ふっと」によって表された時間の緩みから生れた自己意識で、日常からピカソの絵に表現されたような感情の炸裂へと直結する。この感情はすでに前夜までに蓄積されていたのだろうが、朝の明るい鏡によって意識へと浮上したのだ。前後のドラマを想像するのもいいが、一句の素晴らしさは自己を「泣く女」として再客観化してとらえる視点にある。
ある朝ふっと鏡の中の「泣く女」