川柳独特の省略が効いた句。「向かうとき」いったい何がどうなるのか? 「斧」が切る対象についても、「斧」を振るう主体についても書かれていない。にもかかわらずこの句に説得力を感じるのは、細工に向かない「斧」の性質をしっかりとらえて、「愚直な」と擬人化ぎみに表現した視点(うがち)によるだろう。「斧」は対象がなんであれ、振られればそのまま「愚直」に切りつけるしかないのだ。この描かれた「斧」はあくまでも「斧」そのものでありながら、この世のあらゆるものの喩となりうる。読者には「~とき」の後を考えることで、それぞれの読みを展開することが許されている。ここでは横書きだが、この句は「上から下に」縦書きで読まれるのが特にふさわしい句。
愚直な斧が上から下に向かうとき