宝船《たからぶね》しわになるほど女房こぎ
正月二日の姫始めを取りあげたからには、宝船を見のがすわけにはいかない。明治以来、この習俗はなくなったが、幕末までは元日と二日の宵《よい》に、七福神《しちふくじん》と宝船の一枚ずりの絵を、縁起物として売りあるいたものである。
どの家でもこの宝船を買って、二日の夜、枕の下に敷いて寝たのは、その夜見る夢を初夢というので、吉夢《きつむ》を見ようためである。そこがソレ、二日の夜はうまいぐあいに姫始めということなので、女房も枕の下に敷いた宝船の絵が、しわになるほど漕がねばならぬ仕儀《しぎ》とあいなったしだいである。
宝船|艪《ろ》をおすような音をさせ
という句も、女房のフンレイ努力ぶりをいったのであるが、音の出どころは、かつての日本髪女性が用いた舟底の箱枕であるとご承知ねがいたい。
ショートカットで坊主枕では、こういうイキな音は出せっこない。
福神のするを見たもう二日の夜
いくら神さまでも、枕の上で姫始めの艪《ろ》をこがれては、気をわるくなさったことであろう。