ハリーもロンもまるでわけがわからない様子なのを見て、ハーマイオニーは急いで説明した。
「いいこと、私がいま刀を手にして、ロン、あなたを突き刺さしたとするわね。でも私はあなたの魂を壊すことはできないわ」
「そりゃあ、僕としては、きっとほっとするだろうな」ロンが言った。
ハリーが笑った。
「ほっとすべきだわ、ほんとに でも私が言いたいのは、あなたの体がどうなろうと、魂は無傷で生き残るということなの」ハーマイオニーが言った。「ところが、その逆が分霊箱。中に入っている魂の断片が生き残るかどうかは、その入れ物、つまり魔法にかけられた体に依存いぞんしているの。体なしには存在できないのよ」
「あの日記帳は、僕が突き刺したときに、ある意味で死んだ」
ハリーは穴のあいたページからインクが血のようにあふれ出したこと、そしてヴォルデモートの魂の断片が消えていくときの悲鳴ひめいを思い出した。
「そして、日記帳が完全に破壊されたとき、その中に閉じ込められていた魂の一部は、もはや存在できなくなったの。ジニーはあなたより先に日記帳を処分しょぶんしようとしてトイレに流したけど、当然、日記帳は新品同様で戻ってきたわ」
「ちょっと待った」ロンが顔をしかめた。「あの日記帳の魂のかけらは、ジニーに取とり憑ついていたんじゃなかったか どういう仕組みなんだ」
「魔法の容器が無傷のうちは、中の魂の断片は、誰かが容器に近づきすぎると、その人間に出入りできるの。何もその容器を長く持っているという意味ではないのよ。容器に触ふれることとは関係がないの」ハーマイオニーはロンが口を挟はさむ前に説明を加えた。「感情的に近づくという意味なの。ジニーはあの日記帳に心を打ち明けた。それで極端きょくたんに無む防ぼう備びになってしまったのね。分霊ぶんれい箱ばこが気に入ってしまったり、それに依存いぞんするようになると問題だわ」
「ダンブルドアは、いったいどうやって指輪ゆびわを破壊はかいしたんだろう」ハリーが言った。「僕、どうしてダンブルドアに聞かなかったのかな 僕、一度も……」
ハリーの声がだんだん弱くなった。ダンブルドアに聞くべきだったさまざまなことを、ハリーは思い浮かべていた。どんなに多くの機会を逃してしまったことか、校長先生が亡くなったいま、ハリーはしみじみそう思った。ダンブルドアが生きているうちに、もっといろいろ知る機会があったのに……あれもこれも知る機会があったのに……。
壁かべを震ふるわせるほどの勢いで部屋の戸が開き、一瞬いっしゅんにして静けさが破やぶられた。ハーマイオニーは悲鳴ひめいを上げ、「深ふかい闇やみの秘術ひじゅつ」を取り落とした。クルックシャンクスは素早くベッドの下に潜もぐり込み、シャーッと威嚇いかくした。ロンはベッドから飛び降おり、落ちていた蛙かえるチョコの包み紙で滑すべって反対側の壁に頭をぶつけた。ハリーは本能的に杖つえに飛びついたが、気がつくと目の前にいるのはウィーズリーおばさんだった。髪かみは乱れ、怒りで顔が歪ゆがんでいる。