「ポッター、大丈夫ですか」
その声でハリーは我に返った。ハリーはルーナの肩につかまって体を支えていた。
「時間がありません。ヴォルデモートがどんどん近づいています。先生、僕はダンブルドアの命令で行動しています。ダンブルドアが僕に見つけてほしかったものを、探し出さなければなりません でも、僕がこの城の中を探している間に、生徒たちを逃がさないといけません――ヴォルデモートの狙ねらいは僕ですが、行きがけの駄賃だちんにあと何人殺すことになっても、あいつは気にも止めないでしょう。いまとなっては――」
「僕が分ぶん霊れい箱ばこを攻撃こうげきしていると知ったいまとなっては」とハリーは心の中で文章を完結させた。
「あなたはダンブルドアの命令で行動していると」
マクゴナガル教授きょうじゅは、はっとしたような表情で繰り返し、すっと背筋を伸ばした。
「『名前を言ってはいけないあの人』から、この学校を守りましょう。あなたが、その――その何かを探している間は」
「できるのですか」
「そう思います」
マクゴナガル教授は、あっさりと言ってのけた。
「先生方は、知ってのとおり、かなり魔法に長たけています。全員が最高の力を出せば、しばらくの間は『あの人』を防ぐことができるに違いありません。もちろん、スネイプ教授については、何とかしなければならないでしょうが――」
「それは、僕が――」
「――そして、闇やみの帝王ていおうが校門の前に現れ、ホグワーツがまもなく包囲されるという事態になるのであれば、無関係の人間をできるだけ多く逃がすのが、賢明けんめいというものでしょう。しかし、煙えん突とつ飛行ひこうネットワークは監視かんしされ、学校の構内では『姿すがた現わし』も不可能となれば――」
「手段はあります」
ハリーが急いで口を挟はさみ、ホッグズ・ヘッドに続く通路のことを説明した。
「ポッター、何百人という数の生徒の話ですよ――」
「わかっています、先生。でも、もしヴォルデモートと死し喰くい人びとが、学校の境界周辺に注意を集中していれば、ホッグズ・ヘッドから誰が『姿くらまし』しようが、関心を払わないと思います」
「たしかに一理いちりあります」
マクゴナガル教授が同意した。教授が杖つえをカロー兄妹きょうだいに向けると、銀色の網あみが縛しばられた二人の上に被かぶさり、二人を包んで空中に吊つり上げた。二人はブルーと金色の天井から、二匹の大きな醜みにくい深海生物のようにぶら下がった。
「さあ、ほかの寮りょう監かんに警告けいこくを出さなければなりません。あなたたちは、また『マント』を被ったほうがよいでしょう」