丘の上の光景が消え、ハリーはダンブルドアの校長室に立っていた。そして何かが、傷きずついた獣けもののような恐ろしいうめき声を上げていた。スネイプが、ぐったりと前まえ屈かがみになって椅い子すに掛かけ、ダンブルドアが立ったまま暗い顔でその姿を見下ろしていた。やがてスネイプが顔を上げた。荒涼こうりょうとしたあの丘の上の光景以来、スネイプは百年もの間、悲惨ひさんに生きてきたような顔だった。
「あなたなら……きっと……あの女ひとを……守ると思った……」
「リリーもジェームズも、間違った人間を信用したのじゃ」ダンブルドアが言った。「おまえも同じじゃな、セブルス。ヴォルデモート卿きょうが、リリーを見逃すと期待しておったのではないかな」
スネイプは、ハァハァと苦しそうな息いき遣づかいだった。
「リリーの子は生き残っておる」ダンブルドアが言った。
スネイプは、ギクッと小さく頭をひと振りした。うるさい蝿はえを追うような仕種しぐさだった。
「リリーの息子は生きておる。その男の子は、彼女の目を持っている。そっくり同じ目だ。リリー・エバンズの目の形も色も、おまえは覚えておるじゃろうな」
「やめてくれ」スネイプが大声を上げた。「もういない……死んでしまった……」
「後悔か、セブルス」
「私も……私も死にたい……」
「しかし、おまえの死が、誰の役に立つというのじゃ」ダンブルドアは冷たく言った。「リリー・エバンズを愛していたなら、本当に愛していたなら、これからのおまえの道は、はっきりしておる」
スネイプは苦痛の靄もやの中を、じっと見み透すかしているように見えた。ダンブルドアの言葉がスネイプに届くまで、長い時間が必要であるかのようだった。