死者は、大広間の真ん中に横たえられていた。フレッドの亡なき骸がらは、家族に囲まれていてハリーには見えなかった。ジョージが頭のところにひざまずき、ウィーズリーおばさんはフレッドの胸の上に突っ伏して体を震わせていた。おばさんの髪かみをなでながら、ウィーズリーおじさんの頬ほおには、滝のような涙が流れていた。
ハリーには何も言わずに、ロンとハーマイオニーが離れていった。ハリーはハーマイオニーが、顔を真っ赤に泣き腫はらしたジニーに近づいて抱きしめるのを見た。ロンは、ビル、フラー、パーシーのそばに行った。パーシーは、ロンの肩を抱いた。ジニーとハーマイオニーが、家族のほうに近寄ろうと移動したとき、ハリーはフレッドの隣となりに横たわる亡骸をはっきりと見た。リーマスとトンクスだ。血の気の失うせた顔は、静かで安らかだった。魔法のかかった暗い天井の下で、まるで眠っているように見えた。
ハリーは、入口からよろよろと後あと退ずさりした。大広間が飛び去り、小さく縮んでいくような気がした。ハリーは胸が詰まった。そのほかに誰が自分のために死んだのかを、亡骸を見て確かめるなどとてもできない。ウィーズリー一家のそばに行くことなど、とてもできない。ウィーズリー家のみんなの目をまともに見ることなど、できない。はじめから自分が我が身を差し出していれば、フレッドは死なずにすんだかもしれないのに……。
ハリーは大広間に背を向け、大理石の階段を駆かけ上がった。ルーピン、トンクス……感じることができなければいいのに……心を引き抜いてしまいたい。腸はらわたも何もかも、体の中で悲鳴を上げているすべてのものを、引き抜いてしまうことができればいいのに……。
城の中は、完全に空からっぽだった。ゴーストまでが大広間の追つい悼とうに加わっているようだった。ハリーは、スネイプの最後の想いが入ったクリスタルのフラスコを握りしめて、走り続けた。校長室を護衛ごえいしている石のガーゴイル像の前に着くまで、ハリーは速度を緩ゆるめなかった。
「合言葉は」
「ダンブルドア」
ハリーは反はん射しゃ的てきに叫さけんだ。ハリーがどうしても会いたかったのがダンブルドアだったからだ。驚いたことに、ガーゴイルは横に滑すべり、背後の螺ら旋せん階かい段だんが現れた。
円形の校長室に飛び込んだハリーは、ある変化が起こっているのに気づいた。周囲の壁かべに掛かかっている肖しょう像ぞう画がは、すべて空からだった。歴代校長は誰一人として、ハリーを待ち受けてはいなかった。どうやら全員が状況をよく見ようと、城に掛けられている絵画の中を駆かけ抜けていったらしい。
ハリーはがっかりして、校長の椅い子すの真後ろに掛かっているダンブルドアのいない額がくをちらりと見上げ、すぐに背を向けた。石の「憂うれいの篩ふるい」が、いつもの戸棚とだなの中に置かれていた。ハリーは、それを持ち上げて机の上に置き、ルーン文字を縁ふちに刻きざんだ大きな水すい盆ぼんに、スネイプの記憶を注ぎ込んだ。誰かほかの人間の頭の中に逃げ込めれば、どんなに気が休まることか……たとえあのスネイプがハリーに遺のこしたものであれ、ハリー自身の想いより悪いはずがない。記憶は銀白色の不思議な渦うずを巻いた。どうにでもなれと自じ暴ぼう自じ棄きな気持で、自分を責せめさいなむ悲しみをこの記憶が和やわらげてくれるとでも言うように、ハリーは迷わず渦に飛び込んだ。