廊下ろうかが消えたが、場面が変わるまでに、いままでより長い時間がかかった。ハリーは、形や色が置き換わる中を飛んでいるようだった。やがて周囲が再びはっきりし、ハリーは闇やみの中で、侘わびしく冷たい丘の上に立っていた。木の葉の落ちた数本の木の枝を、風がヒューヒュー吹き鳴らしていた。大人になったスネイプが、息を切らしながら杖つえをしっかり握りしめて、何かを、いや誰かを待ってその場でぐるぐる回っていた……自分には危害が及ばないと知ってはいても、スネイプの恐怖きょうふがハリーにも乗り移り、ハリーは、スネイプが何を待っているのかと訝いぶかりながら、後ろを振り返った――。
すると、目も眩むような白い光線が闇を劈つんざいてジグザグに走った。ハリーは稲いな妻ずまだと思った。ところがスネイプの手から杖が吹き飛ばされ、スネイプはがっくりと膝ひざをついた。
「殺さないでくれ」
「わしには、そんなつもりはない」
ダンブルドアが「姿すがた現わし」した音は、枝を鳴らす風の音に飲み込まれていた。スネイプの前に立ったダンブルドアは、ローブを体の周りにはためかせ、その顔は下からの杖つえ灯あかりに照らされていた。
「さて、セブルス ヴォルデモート卿きょうが、わしに何の伝言かな」
「違う――伝言ではない――私は自分のことでここに来た」
スネイプは両手を揉もみしだいていた。黒い髪かみが顔の周りにバラバラにほつれて飛び、狂乱した様子に見えた。
「私は――警けい告こくにきた――いや、お願いに――どうか――」
ダンブルドアは軽く杖つえを振った。二人の周囲では、木の葉も枝も吹きすさぶ夜風に煽あおられ続けてはいたが、ダンブルドアとスネイプが向かい合っている場所だけは静かになった。