再び長い沈ちん黙もくが流れた。そしてスネイプが口を開いた。
「私は……この長い年月……我々が彼女のために、あの子を守っていると思っていた。リリーのために」
「わしらがあの子を守ってきたのは、あの子に教え、育はぐくみ、自分の力を試させることが大切だったからじゃ」
目を固く閉じたまま、ダンブルドアが言った。
「その間、あの二人の結びつきは、ますます強くなっていった。寄き生せい体たいの成長じゃ。わしはときどき、ハリー自身がそれにうすうす気づいているのではないかと思うた。わしの見込みどおりのハリーなら、いよいよ自分の死に向かって歩み出すそのときには、それがまさにヴォルデモートの最期となるように、取り計はからっているはずじゃ」
ダンブルドアは目を開けた。スネイプは、ひどく衝撃しょうげきを受けた顔だった。
「あなたは、死ぬべきときに死ぬことができるようにと、いままで彼を生かしてきたのですか」
「そう驚くでない、セブルス。いままで、それこそ何人の男や女が死ぬのを見てきたのじゃ」
「最近は、私が救えなかった者だけです」スネイプが言った。
スネイプは立ち上がった。
「あなたは、私を利用した」
「はて」
「あなたのために、私は密みっ偵ていになり、嘘うそをつき、あなたのために、死ぬほど危険な立場に身を置いた。すべてが、リリー・ポッターの息子を安全に守るためのはずだった。いまあなたは、その息子を、屠殺とさつされるべき豚のように育ててきたのだと言う――」
「なんと、セブルス、感動的なことを」ダンブルドアは真顔で言った。「結局、あの子に情が移ったと言うのか」
「彼に」
スネイプが叫さけんだ。
「エクスペクト パトローナム 守しゅ護ご霊れいよ、来たれ」
スネイプの杖つえ先さきから、銀色の牝鹿めじかが飛び出した。牝鹿は校長室の床に降おり立って、一跳ひとっとびで部屋を横切り、窓から姿を消した。ダンブルドアは牝鹿が飛び去るのを見つめていた。そして、その銀色の光が薄うすれたとき、スネイプに向き直ったダンブルドアの目に、涙なみだがあふれていた。
「これほどの年月が、経たってもか」
「永と遠わに」スネイプが言った。