「ここはどこだ」ロンの声がした。
ハリーは目を開けた。一瞬いっしゅん、ハリーは、結局、まだ結婚式場から離れていないのではないかと思った。依然いぜんとして、大勢の人に周りを囲まれているようだった。
「トテナム・コート通りよ」ハーマイオニーが息を切らせながら言った。「歩いて、とにかく歩いて。どこか着き替がえる場所を探さなくちゃ」
ハリーは、言われたとおりにした。暗い広い通りを、三人は半分走りながら歩いた。通りには深夜の酔客すいきゃくがあふれ、両側には閉店した店が並び、頭上には星が輝かがやいている。二階建てバスがゴロゴロとそばを走り、パブで浮かれていたグループが、通りかかった三人をじろじろ見た。ハリーとロンはまだ、ドレスローブ姿だった。
「ハーマイオニー、着替える服がないぜ」ロンが言った。若い女性がロンを見て、さもおかしそうに吹き出し、耳みみ障ざわりなクスクス笑いをしたときだった。
「『透とう明めいマント』を肌身はだみ離さず持っているべきだったのに、どうしてそうしなかったんだろう」ハリーは間抜けな自分を内心呪のろった。「一年間ずっと持ち歩いていたのに……」
「大丈夫、『マント』は持ってきたし、二人の服もあるわ」ハーマイオニーが言った。「ごく自然に振舞ふるまって。場所を見つけるまで――ここがいいわ」
ハーマイオニーは先に立って脇わき道みちに入り、そこから人目のない薄うす暗ぐらい横丁よこちょうへ二人を誘いざなった。
「『マント』と服があるって言ったけど……」ハリーがハーマイオニーを見て顔をしかめた。ハーマイオニーはたった一つ手に持った、小さなビーズのバッグを引っかき回していた。
「ええ、ここにあるわ」その言葉とともにハーマイオニーは、呆気あっけに取られているハリーとロンの目の前に、ジーンズ一着とシャツ一枚、栗くり色いろのソックス、そして最後に銀色の「透とう明めいマント」を引っ張り出した。