三人ともピリピリしながら黙だまり込んだ。ガムを噛かみながら面倒くさそうにやってきたウェイトレスに、ハーマイオニーはカプチーノを二つだけ頼んだ。ハリーの姿が見えないのに、もう一つ注文するのは変だからだ。がっちりした労働者風の男が二人、カフェに入ってきて、隣となりのボックス席に窮屈きゅうくつそうに座った。ハーマイオニーは声を落として囁ささやいた。
「どこか静かな場所を見つけて『姿すがたくらまし』しましょう。そして地方に行くの。そこに着いたら、騎き士し団だんに伝言を送れるわ」
「じゃ、君、あのしゃべる守しゅ護ご霊れいとか、できるの」ロンが聞いた。
「ずっと練習してきたわ。できると思う」ハーマイオニーが言った。
「まあね、騎士団のメンバーが困ったことにならないなら、それでいいけど。だけど、もう捕まっちまってるかもな。ウエッ、むかつくぜ」
ロンが、泡あわだった灰色のコーヒーを一口すすり、吐はき捨てるように言った。のろのろと隣の客の注文を取りにいくところだったウェイトレスが、聞き咎とがめてロンにしかめ面を向けた。労働者風の二人のうち、ブロンドでかなり大おお柄がらなほうの男が、あっちへ行けとウェイトレスを手で追い払うのを、ハリーは見ていた。ウェイトレスはむっとした顔で男をにらんだ。
「それじゃ、もう行こうぜ。僕、こんな泥どろ、飲みたくない」ロンが言った。「ハーマイオニー、支払いするのにマグルのお金持ってるのか」
「ええ、『隠かくれ穴あな』に行く前に、住宅じゅうたく金融きんゆう組合くみあいの貯金を全部下ろしてきたから。でも小銭こぜにはきっと、バッグのいちばん底に沈んでるに決まってるわ」
ハーマイオニーはため息をついて、ビーズのバッグに手を伸ばした。
二人の労働者が同時に動いた。ハリーも無意識に同じ動きをし、三人が杖つえを抜いていた。ロンは一瞬いっしゅん遅れて事態に気づき、テーブルの反対側から飛びついて、ハーマイオニーをベンチ席に横倒しにした。死し喰くい人びとたちの強力な呪じゅ文もんが、それまでロンの頭があったところの背後のタイル壁かべを粉こな々ごなに砕くだいた。同時に、姿を隠したままのハリーが叫さけんだ。
「ステューピファイ 麻ま痺ひせよ」
大おお柄がらのブロンドの死喰い人は、赤い閃せん光こうをまともに顔に受けて気を失いドサリと横向きに倒れた。もう一人は誰が呪文をかけたのかわからず、またロンを狙ねらって呪文を発はっ射しゃした。黒く光る縄なわが杖つえ先さきから飛び出し、ロンの頭から足までを縛しばり上げた――ウェイトレスが悲鳴ひめいを上げて出口に向かって逃げ出した――ロンを縛ったひん曲り顔の死喰い人に、ハリーはもう一発「失しっ神しんの呪じゅ文もん」を撃うったが逸それて、窓で跳はね返った呪文がウェイトレスに当たった。ウェイトレスは出口の前に倒れた。