「こいつらの記憶きおくを消すだけでいい」ハリーが言った。「そのほうがいいんだ。連中は、それで僕たちを嗅かぎつけられなくなる。殺したら、僕たちがここにいたことがはっきりしてしまう」
「君がボスだ」ロンは、心からほっとしたように言った。「だけど、ぼく『忘却ぼうきゃく呪じゅ文もん』を使ったことがない」
「私もないわ」ハーマイオニーが言った。「でも、理論は知ってる」
ハーマイオニーは深呼吸して気を落ち着け、杖をドロホフの額ひたいに向けて唱となえた。
「オブリビエイト 忘れよ」
たちまちドロホフの目がとろんとし、夢を見ているような感じになった。
「いいぞ」ハリーは、ハーマイオニーの背中を叩たたきながら言った。「もう一人とウェイトレスもやってくれ。その間に僕とロンはここを片付けるから」
「片付ける」ロンが半はん壊かいしたカフェを見回しながら言った。「どうして」
「こいつらが正気づいて、自分たちのいる場所が爆破ばくはされたばかりの状態だったら、何があったのかと疑うだろう」
「ああ、そうか、そうだな……」
ロンは、尻しりポケットから杖つえを引っ張り出すのに一瞬いっしゅん苦労していた。
「なんで杖が抜ぬけないのかと思ったら、わかったよ、ハーマイオニー、君、僕の古いジーンズを持ってきたんだ。これ、きついよ」
「あら、悪かったわね」ハーマイオニーが癇かんに障さわったように小声で言い、ウェイトレスを窓から見えない位置まで引きずりながら、それならあそこに挿させばよいのにと別な場所をブツブツ言うのが、ハリーの耳に聞こえてきた。
カフェが元通りになると、三人は、死し喰くい人びとたちが座っていたボックスに二人を戻し、向かい合わせにして寄より掛かからせた。