数秒後、ハリーの肺は心地よく広がり、目を開けると、三人は見覚えのある小さな寂さびれた広場の真ん中に立っていた。四方から、老ろう朽きゅう化かした丈たけの高い建物がハリーたちを見下ろしていた。「秘ひ密みつの守もり人びと」だったダンブルドアから教えられていたので、ハリー、ロン、ハーマイオニーはグリモールド・プレイス十二番地の建物を見ることができた。跡あとを追つけられていないか、見張られていないかを数歩ごとに確かめながら、三人は建物に向かって急いだ。入口の石段を大急ぎで駆かけ上がり、ハリーが杖つえで玄げん関かんの扉とびらを一回だけ叩たたいた。カチッカチッと金属音が何度か続き、カチャカチャ言う鎖くさりの音が聞こえて、扉がギーッと開いた。三人は急いで敷居しきいを跨またいだ。
ハリーが扉を閉めると、旧式のガスランプがポッと灯ともり、玄関ホール全体にチラチラと明かりを投げかけた。ハリーの記憶きおくにあるとおりの場所だった。不気味で、クモの巣だらけで、壁かべにずらりと並んだしもべ妖よう精せいの首が、階段に奇妙きみょうな影を落としている。黒く長いカーテンは、その裏うらにシリウスの母親の肖しょう像ぞう画がを隠している。あるべき場所にないのは、トロールの足の傘かさ立たてだけだった。トンクスがまたしてもひっくり返したように、横倒しになっている。
「誰かがここに来たみたい」ハーマイオニーが、それを指差して囁ささやいた。
「騎き士し団だんが出ていくときに、ひっくり返った可能性もあるぜ」ロンが囁き返した。
「それで、スネイプ除けの呪詛って、どこにあるんだ」ハリーが問いかけた。
「あいつが現れたときだけ、作動するんじゃないのか」ロンが意見を言った。
それでも三人は、それ以上中に入るのを恐れて、扉に背をくっつけて身を寄せ合ったまま、玄関マットの上に立っていた。
「さあ、いつまでもここに立っているわけにはいかない」
そう言うと、ハリーは一歩踏ふみ出した。
「セブルス・スネイプか」
暗くら闇やみからマッド‐アイ・ムーディの声が囁ささやきかけた。三人はギョッとして飛び退すさった。「僕たちはスネイプじゃない」ハリーがかすれ声で言った。その直後、冷たい風のように何かがシュッとハリーの頭上を飛び、ひとりでに舌が丸まって、ハリーはしゃべれなくなった。しかし、手を口の中に入れて調べる前に、舌がほどけて元通りになった。
あとの二人も同じ不快な感覚を味わったらしい。ロンはゲエゲエ言い、ハーマイオニーは言葉がもつれた。
「こ、こ、これは――きっと――し、し――『舌したもつれの呪のろい』で――マッド‐アイがスネイプに仕し掛かけたのよ」