ハリーはもう一度手紙を読んだ。しかし最初に読んだとき以上の意味は読み取れず、筆ひっ跡せきをじっと見るだけだった。母親の「が」の書き方は、ハリーと同じだ。手紙の中で、ハリーは全部の「が」を一つひとつ拾った。そのたびに、その字がベールの陰から覗のぞいて、小さくやさしく手を振ふってくれているような気がした。この手紙は信じがたいほどの宝物だ。リリー・ポッターが生きていたことの、本当にこの世にいたことの証あかしだ。母親の温かな手が、一度はこの羊皮紙の上を動いて、インクでこういう文字を、こういう言葉をしたためたのだ。自分の息子、ハリーに関するこういう言葉を。
濡ぬれた目を拭ぬぐうのももどかしく、こんどは内容に集中して、ハリーはもう一度手紙を読んだ。微かすかにしか覚えていない声を聞くような思いだった。
猫を飼かっていたのだ……両親と同じように、ゴドリックの谷でたぶん非業ひごうの死を遂とげたのだろう……そうでなければ、誰も餌えさをやる人がいなくなったときに逃げたのかもしれない……シリウスが、ハリーの最初の箒ほうきを買ってくれた人なんだ……両親はバチルダ・バグショットと知り合いだった。ダンブルドアが紹介しょうかいしたのだろうか ダンブルドアがジェームズの「透とう明めいマント」を持っていったままだ……何だか変だ……。
ハリーは読むのを中断し、母親の言葉の意味を考えた。ダンブルドアはなぜジェームズの「透明マント」を持っていったのだろう ハリーは、校長先生が何年も前にハリーに言ったことを、はっきり覚えている。「わしはマントがなくても透明になれるのでな」。誰か騎き士し団だんのメンバーで、それほどの能力がない魔法使いが、マントの助けを必要としたのかもしれない。それでダンブルドアが運び役になったのか ハリーはその先を読んだ……。
ワーミーがここに来たわ……あの裏切り者のペティグリューが、「落ち込んでいる」ように見えたって それが生きたジェームズとリリーに会う最後になると、やつにはわかっていたのだろうか
最後はまたバチルダだ。ダンブルドアに関して、信じられないような話をしたという。信じられないのよ、ダンブルドアが――。
ダンブルドアがどうしたって だけど、ダンブルドアに関しては、信じられないと言えそうなことはいくらでもあった。たとえば、変身術の試験で最低の成績を取ったことがあるとか、アバーフォースと同じに「山や羊ぎ使い」の術を学んだとか……。
ハリーは歩き回って、床全体をざっと見渡した。もしかしたら手紙の続きがどこかにあるかもしれない。ハリーは羊皮紙を捜した。見つけたい一心で、最初にこの部屋を探し回った者と同じぐらい乱暴に部屋を引っかき回した。引き出しを開け、本を逆さに振り、椅い子すに乗って洋よう箪笥だんすの上に手を這はわせたり、ベッドや肘ひじ掛かけ椅い子すの下を這い回ったりした。