ハリーとロンはハーマイオニーを見た。ハーマイオニーは片足を上げたまま、「忘ぼう却きゃく術じゅつ」にかかったような、ぼーっとした顔で立っていた。目の焦点しょうてんが合っていない。
「……あのときは」ハーマイオニーは囁ささやくように言い終えた。
「どうかしたのか」ロンが聞いた。
「ロケットが、あったわ」
「えぇっ」ハリーとロンの声が重なった。
「客間きゃくまの飾かざり棚だなに。誰も開けられなかったロケット。それで私たち……私たち……」
ハリーは、レンガが一個、胸から胃に滑すべり落ちたような気がした。思い出した。みんなが順番にそれをこじ開けようとして手から手へ渡していたとき、ハリーも実際、それをいじっている。それは、ゴミ袋に投げ入れられた。「瘡かさ蓋ぶた粉こ」の入った嗅かぎタバコ入れや、みんなを眠りに誘さそったオルゴールなどと一いっ緒しょに……。
「クリーチャーが、僕たちからずいぶんいろんなものをかすめ取った」ハリーが言った。
最後の望みだ。残された唯ゆい一いつの微かすかな望みだ。どうしてもあきらめざるをえなくなるまで、ハリーはその望みにしがみつこうとした。
「あいつは厨ちゅう房ぼう脇わきの納戸なんどに、ごっそり隠していた。行こう」
ハリーは二段跳びで階段を走り下りた。そのあとを、二人が足音を轟とどろかせて走った。あまりの騒音に、三人が玄げん関かんホールを通り過ぎるとき、シリウスの母親の肖しょう像ぞう画がが目を覚ました。
「クズども 穢けがれた血 塵芥ちりあくたの輩やから」地下の厨房に疾走しっそうする三人の後ろから、肖像画が叫さけんだ。三人は厨房の扉とびらをバタンと閉めた。
ハリーは厨房を一気に横切り、クリーチャーの納戸の前で急きゅう停てい止しし、ドアをぐいと開けた。そこには、しもべ妖よう精せいがかつてねぐらにしていた、汚きたならしい古い毛布の巣があった。しかしクリーチャーが漁あさってきたキラキラ光るガラクタはもう見当たらない。「生きっ粋すいの貴族きぞく――魔ま法ほう界かい家か系けい図ず」の古本があるだけだった。そんなはずはないと、ハリーは剥はぎ取った毛布を振ふった。死んだネズミが一匹落ちてきて、みじめに床に転ころがった。ロンはうめき声を上げて厨房の椅い子すに座り込み、ハーマイオニーは目をつむった。