「まだ終わっちゃいない」そう言うなり、ハリーは声高に呼んだ。「クリーチャー」
バチンと大きな音がして、ハリーがシリウスからしぶしぶ相続したしもべ妖精が、火の気のない寒々とした暖炉だんろの前に忽こつ然ぜんと現れた。人間の半分ほどの小さな体に、青白い皮ひ膚ふが折り重なって垂れ下がり、コウモリのような大耳から白い毛がぼうぼうと生えている。最初に見たときと同じ、汚らしいボロを着たままの姿だ。ハリーを見る軽けい蔑べつした目が、持ち主がハリーに変わっても、ハリーに対する態度は着ているものと同様、変わっていないことを示していた。
「ご主人様」
クリーチャーは食用ガエルのような声を出し、深々とお辞じ儀ぎをして、自分の膝ひざに向かってブツブツ言った。
「奥様の古いお屋敷やしきに戻ってきた。血を裏切るウィーズリーと穢けがれた血も一いっ緒しょに――」
「誰に対しても『血を裏切る者』とか『穢れた血』と呼ぶことを禁じる」
ハリーが叱しかりつけた。豚のような鼻、血走った眼め――シリウスを裏切ってヴォルデモートの手に渡したことを別にしたとしても、どのみちハリーは、クリーチャーを好きになれなかっただろう。
「おまえに質問がある」
心臓が激はげしく鼓動こどうするのを感じながら、ハリーはしもべ妖よう精せいを見下ろした。
「それから、正直に答えることを命じる。わかったか」
「はい、ご主人様」クリーチャーはまた深々と頭を下げた。ハリーはその唇くちびるが動くのを見た。禁じられてしまった侮辱ぶじょくの言葉を、声を出さずに言っているに違いない。
「二年前に」ハリーの心臓は、いまや激しく肋ろっ骨こつを叩たたいていた。「二階の客間に大きな金のロケットがあった。僕たちはそれを捨てた。おまえはそれをこっそり取り戻したか」
一瞬いっしゅんの沈ちん黙もくの間に、クリーチャーは背筋せすじを伸ばしてハリーをまともに見た。そして「はい」と答えた。
「それは、いまどこにある」
ハリーは小躍こおどりして聞いた。ロンとハーマイオニーは大喜びだ。
クリーチャーは、次の言葉に三人がどう反応するか見るに耐たえないというように、目をつむった。
「なくなりました」
「なくなった」
ハリーが繰くり返した。高揚こうようした気持ちが一気に萎しぼんだ。
「なくなったって、どういう意味だ」
しもべ妖精は身震みぶるいし、体を揺ゆらしはじめた。