しもべ妖精は体を起こして座り、濡ぬれた顔を膝の間に突っ込んで丸くなり、前後に体を揺ゆすりはじめた。話し出すと、くぐもった声にもかかわらず、しんとした厨房ちゅうぼうにはっきりと響ひびいた。
「シリウス様は、家出しました。厄やっ介かい払ばらいができました。悪い子でしたし、無む法ほう者もので奥様の心を破やぶった人です。でもレギュラス坊ぼっちゃまは、きちんとしたプライドをお持ちでした。ブラック家の家名と純血じゅんけつの尊そん厳げんのために、なすべきことをご存知ぞんじでした。坊ちゃまは何年も闇やみの帝てい王おうの話をなさっていました。隠れた存在だった魔法使いを、陽ひの当たるところに出し、マグルやマグル生まれを支配する方だと……そして十六歳におなりのとき、レギュラス坊ちゃまは闇の帝王のお仲間になりました。とてもご自慢じまんでした。とても。あの方にお仕つかえすることをとても喜んで……」
「そして一年が経たったある日、レギュラス坊ちゃまは、クリーチャーに会いに厨房に下りていらっしゃいました。坊ちゃまは、ずっとクリーチャーをかわいがってくださいました。そして坊ちゃまがおっしゃいました……おっしゃいました……」
年老いたしもべ妖精は、ますます激はげしく体を揺すった。
「……闇の帝王が、しもべ妖精を必要としていると」
「ヴォルデモートが、しもべ妖精を必要としている」
ハリーはロンとハーマイオニーを振ふり返りながら、繰くり返した。二人ともハリーと同じく、怪訝けげんな顔をしていた。
「さようでございます」クリーチャーがうめいた。「そしてレギュラス様は、クリーチャーを差し出したのです。坊ぼっちゃまはおっしゃいました。これは名誉めいよなことだ。自分にとっても、クリーチャーにとっても名誉なことだから、クリーチャーは闇やみの帝てい王おうのお言いつけになることは何でもしなければならないと……そのあとで帰かえ――帰ってこいと」
クリーチャーの揺ゆれがますます速くなり、すすり泣きながら切れ切れに息をしていた。
「そこでクリーチャーは、闇の帝王のところへ行きました。闇の帝王は、クリーチャーに何をするのかを教えてくれませんでしたが、一いっ緒しょに海辺の洞ほら穴あなに連れていきました。洞穴の奥に洞どう窟くつがあって、洞窟には大きな黒い湖が……」
ハリーは首くび筋すじがぞくっとして、毛が逆立った。クリーチャーの声が、あの暗い湖を渡って聞こえてくるようだった。そのとき何が起こったのか、まるで自分がそこにいるかのようによくわかった。