しばらく誰もしゃべらなかった。ハリーは、すぐには事実を飲み込めずに考え込んだ。ヴォルデモートは、どうしてそんなミスを犯おかしたのだろう しかし、考えがまとまらないうちに、ハーマイオニーが先に口を開いた。冷たい声だった。
「もちろんだわ。ヴォルデモートは、屋敷やしきしもべ妖精がどんなものかなんて、気に留める価値もないと思ったのよ。純血じゅんけつたちが、しもべ妖精を動物扱いするのと同じようにね……あの人は、しもべ妖精が自分の知らない魔力を持っているかもしれないなんて、思いつきもしなかったでしょうよ」
「屋敷しもべ妖精の最さい高こう法ほう規きは、ご主人様のご命令です」クリーチャーが唱となえるように言った。「クリーチャーは家に帰るようにと言われました。ですから、クリーチャーは家に帰りました……」
「じゃあ、あなたは、言われたとおりのことをしたんじゃない」ハーマイオニーが優しく言った。「命令に背そむいたりしていないわ」
クリーチャーは首を振ふって、ますます激はげしく体を揺ゆらした。
「それで、帰ってきてからどうなったんだ」ハリーが聞いた。「おまえから話を聞いたあとで、レギュラスは何と言ったんだい」
「レギュラス坊ぼっちゃまは、とてもとても心配なさいました」
クリーチャーがしゃがれ声で答えた。
「坊ちゃまは、クリーチャーに隠れているように、家から出ないようにとおっしゃいました。それから……しばらく日が経たってからでした……レギュラス坊ちゃまが、ある晩、クリーチャーの納戸なんどにいらっしゃいました。坊ちゃまは変でした。いつもの坊ちゃまではありませんでした。正気を失っていらっしゃると、クリーチャーにはわかりました……そして坊ちゃまは、その洞ほら穴あなに自分を連れていけとクリーチャーに頼みました。クリーチャーが、闇やみの帝てい王おうと一いっ緒しょに行った洞穴です……」
二人はそうして出発したのか。ハリーには、二人の姿が目に見えるようだった。歳を取って怯おびえたしもべ妖よう精せいと、シリウスによく似た、痩やせて黒い髪かみのシーカー……クリーチャーは、地の底の洞どう窟くつへの隠された入口の開け方を知っていたし、小舟の引き揚げ方も知っていた。こんどは愛いとしいレギュラス坊ぼっちゃまが、一いっ緒しょの小舟で毒の入った水すい盆ぼんのある島に行く……。
「それで、レギュラスは、おまえに薬を飲ませたのか」ハリーはむかつく思いで言った。
しかしクリーチャーは首を振ふり、さめざめと泣いた。ハーマイオニーの手がぱっと口を覆おおった。何かを理解した様子だ。
「ご――ご主人様は、ポケットから闇やみの帝てい王おうの持っていたロケットと似た物を取り出しました」クリーチャーの豚鼻の両脇りょうわきから、涙がぼろぼろこぼれ落ちた。「そしてクリーチャーにこうおっしゃいました。それを持っていろ、水すい盆ぼんが空からになったら、ロケットを取り替かえろ……」
クリーチャーのすすり泣きは、ガラガラと耳ざわりな音になっていた。ハリーは聞き取るのに、神経を集中しなければならなかった。