「それから坊ちゃまはクリーチャーに――命令なさいました――一人で去れと。そしてクリーチャーに――家に帰れと。――奥様には決して――自分のしたことを言うな。――そして最初のロケットを――破壊はかいせよと。そして坊ちゃまは、お飲みになりました――全部です。――そしてクリーチャーは、ロケットを取り替えました。――そして見ていました……レギュラス坊ちゃまが……水の中に引きこまれて……そして……」
「ああ、クリーチャー」
泣き続けていたハーマイオニーが、悲しげな声を上げた。そしてしもべ妖精のそばに膝ひざをつき、クリーチャーを抱きしめようとした。クリーチャーはすぐさま立ち上がり、あからさまにいやそうな様子で身を引いた。
「穢けがれた血がクリーチャーに触さわった。クリーチャーはそんなことをさせない。奥様がなんとおっしゃるか」
「ハーマイオニーを『穢れた血』って呼ぶな、と言ったはずだ」
ハリーがうなるように怒ど鳴なった。しかし、しもべ妖精は早くも床に倒れて額ひたいを床に打ちつけ、自分を罰ばっしていた。
「やめさせて――やめさせてちょうだい」ハーマイオニーが泣き叫さけんだ。「ああ、ねえ、わからないの しもべ妖精を隷従れいじゅうさせるのがどんなにひどいことかって」
「クリーチャー――やめろ、やめるんだ」ハリーが叫んだ。
しもべ妖精は震ふるえ、あえぎながら床に倒れていた。豚鼻の周りには緑色の洟はなみずが光り、青ざめた額には、いま打ちつけたところにもう痣あざが広がっていた。そして、腫はれ上がって血走った眼めには、涙があふれている。ハリーはこんなに哀あわれなものを、これまで見たことがなかった。
「それでおまえは、ロケットを家に持ち帰った」話の全ぜん貌ぼうを知ろうと固く心に決めていたハリーは、容よう赦しゃなく聞いた。「そして破壊はかいしようとしたわけか」
「クリーチャーが何をしても、傷一つつけられませんでした」しもべ妖よう精せいがうめいた。
「クリーチャーは全部やってみました。知っていることは全部。でもどれも、どれもうまくいきませんでした……外側のケースには強力な呪じゅ文もんがあまりにもたくさんかかっていて、クリーチャーは、破壊する方法は中に入ることに違いないと思いましたが、どうしても開きません……クリーチャーは自分を罰ばっしました。そして開けようとしてはまた罰し、罰してはまた開けようとしました。クリーチャーは、命令に従うことができませんでした。クリーチャーは、ロケットを破壊できませんでした そして、奥様はレギュラス坊ぼっちゃまが消えてしまったので、狂わんばかりのお悲しみでした。それなのにクリーチャーは、何があったかを奥様にお話しできませんでした。レギュラス様に、き――禁じられたからです。か――家族の誰にも、ど――洞どう窟くつでのことは話すなと……」
すすり泣きが激はげしくなり、言葉が言葉としてつながらなくなっていた。クリーチャーを見ているハーマイオニーの頬ほおにも、涙が流れ落ちていた。しかし、あえてまたクリーチャーに触ふれようとはしなかった。クリーチャーが好きでないロンでさえ、いたたまれなさそうだった。ハリーは、しゃがみ込んだまま顔を上げ、頭を振ふってすっきりさせようとした。