「クリーチャー、僕にはおまえがわからない」しばらくしてハリーが言った。「ヴォルデモートはおまえを殺そうとしたし、レギュラスはヴォルデモートを倒そうとして死んだ。それなのに、まだおまえは、シリウスをヴォルデモートに売るのがうれしかったのか おまえはナルシッサやベラトリックスのところへ行き、二人を通じてヴォルデモートに情報じょうほうを渡すのがうれしかった……」
「ハリー、クリーチャーはそんなふうには考えないわ」
ハーマイオニーは手の甲こうで涙を拭ぬぐいながら言った。
「クリーチャーは奴隷どれいなのよ。屋敷やしきしもべ妖精は、不当な扱いにも残ざん酷こくな扱いにさえも慣れているの。ヴォルデモートがクリーチャーにしたことは、普通の扱いとたいした違いはないわ。魔法使いの争いなんて、クリーチャーのようなしもべ妖精にとって、何の意味があると言うの クリーチャーは、親切にしてくれた人に忠実ちゅうじつなのよ。ブラック夫人がそうだったのでしょうし、レギュラスは間違いなくそうだった。だからクリーチャーは、そういう人たちには喜んで仕つかえたし、その人たちの信条しんじょうをそのまま真ま似ねたんだわ。あなたがいま言おうとしていることはわかるわよ」
ハリーが抗議こうぎしかけるのを、ハーマイオニーが遮さえぎった。
「レギュラスは考えが変わった……でもね、それをクリーチャーに説明したとは思えない。そうでしょう 私にはなぜだかわかるような気がする。クリーチャーもレギュラスの家族も、全員、昔からの純血じゅんけつのやり方を守っていたほうが安全だったのよ。レギュラスは全員を守ろうとしたんだわ」
「シリウスは――」
「シリウスはね、ハリー、クリーチャーに対して酷むごかったのよ。そんな顔をしてもだめよ、あなたにもそれがわかっているはずだわ。クリーチャーは、シリウスがここに来て住みはじめるまで、長いこと独りぼっちだった。おそらく、ちょっとした愛情にも飢うえていたんでしょうね。『ミス・シシー』も『ミス・ベラ』も、クリーチャーが現れたときには完かん璧ぺきに優しくしたに違いないわ。だからクリーチャーは、二人のために役に立ちたいと思って、二人が知りたかったことをすべて話したんだわ。しもべ妖よう精せいにひどい扱いをすれば、魔法使いはその報むくいを受けるだろうって、私がずっと言い続けてきたことだけど。まあ、ヴォルデモートは報いを受けたわ……そしてシリウスも……」
ハリーには言い返すことができなかった。クリーチャーが床ですすり泣く姿を見ていると、ダンブルドアが、シリウスの死後何時間と経たたないうちに、ハリーに言った言葉が思い出された。
「クリーチャーが人間と同じように鋭い感情を持つ生き物だとみなしたことがなかったのじゃろう――」
「クリーチャー」しばらくして、ハリーが呼びかけた。「気がすんだら、えーと……座ってくれないかな」
数分経ってやっと、クリーチャーはしゃっくりしながら泣きやんだ。そして起き上がって再び床に座り、小さな子どものように拳こぶしで眼めを擦こすった。