「やめてちょうだい」
クリーチャーがいなくなって三日目の夜、またしても客間の明かりが吸い取られてしまったときに、ハーマイオニーが叫さけんだ。
「ごめん、ごめん」
ロンは「灯ひ消けしライター」をカチッといわせて灯あかりを戻した。
「自分でも知らないうちにやっちゃうんだ」
「ねえ、何か役に立つことをして過ごせないの」
「どんなことさ。お伽噺とぎばなしを読んだりすることか」
「ダンブルドアが私にこの本を遺のこしたのよ、ロン――」
「――そして僕には『灯消しライター』を遺した。たぶん、僕は使うべきなんだ」
口くち喧げん嘩かに耐たえられず、ハリーは二人に気づかれないようにそっと部屋を出て、厨房ちゅうぼうに向かった。クリーチャーが現れる可能性がいちばん高いと思われる厨房に、ハリーは何度も足を運んでいた。しかし、玄げん関かんホールに続く階段を中ほどまで下りたところで、玄関のドアをそっと叩たたく音が聞こえ、カチカチという金きん属ぞく音おんやガラガラという鎖くさりの音がした。
神経の一本一本がぴんと張りつめた。ハリーは杖つえを取り出し、しもべ妖よう精せいの首が並んでいる階段脇わきの暗がりに移動して、じっと待った。ドアが開き、隙間すきまから街がい灯とうに照らされた小さな広場がちらりと見えた。マントを着た人影が、わずかに開いたドアから半身になって玄関ホールに入り、ドアを閉めた。侵しん入にゅう者しゃが一歩進むと、マッド‐アイの声がした。
「セブルス・スネイプか」
するとホールの奥で埃ほこりの姿が立ち上がり、だらりとした死人の手を上げて、するすると向かっていった。
「アルバス、あなたを殺したのは私ではない」静かな声が言った。
呪のろいは破やぶれ、埃の姿はまたしても爆発した。そのあとに残った、もうもうたる灰色の埃を通して、侵入者を見分けるのは不可能だった。
ハリーは、その埃の真ん中に杖を向けて叫んだ。
「動くな」
ハリーは、ブラック夫人の肖しょう像ぞう画がのことを忘れていた。ハリーの大声で、肖像画を隠していたカーテンがパッと開き、叫び声が始まった。
「穢けがれた血、わが屋敷やしきの名誉を汚けがすクズども――」
ロンとハーマイオニーが、ハリーと同じように正体不明の男に杖を向けて、背後の階段をバタバタと駆かけ下りてきた。男はいまや両手を挙あげて、下の玄関ホールに立っていた。
「撃うつな、私だ。リーマスだ」
「ああ、よかった」
ハーマイオニーは弱々しくそう言うなり、杖の狙ねらいをブラック夫人の肖像画に変えた。バーンという音とともに、カーテンがまたシュッと閉まって静けさが戻った。ロンも杖を下ろしたが、ハリーは下ろさなかった。