「『ドローレスに呼ばれているから、私は一階に行くよ』」ハーマイオニーは即座そくざに引用した。
「そのとおりだ」ハリーが言った。「それに、中に入るには変なコインだかチップだかを使うということもわかっている。あの魔女が友達から一つ借りるのを、僕が見てるからだ」
「だけど、私たちは一つも持ってないわ」
「計画どおりに行けば、手に入るよ」ハリーは落ち着いて話を続けた。
「わからないわ、ハリー、私にはわからない……一つ間違えば失敗に終わりそうなことがありすぎるし、あんまりにも運に頼っているし……」
「あと三か月準備じゅんびしたって、それは変わらないよ」ハリーが言った。「行動を起こすときが来た」
ロンとハーマイオニーの表情から、ハリーは二人の恐れる気持を読み取った。ハリーにしても自信があるわけではない。しかし、計画を実行に移すときが来たという確信があった。
三人はこの四週間、代わるがわる「透とう明めいマント」を着て、魔ま法ほう省しょうの公式な入口を偵てい察さつしてきた。ウィーズリー氏のおかげで、ロンはその入口のことを子どものころから知っていた。三人は、魔法省に向かう職員を追つけたり、会話を盗み聞きしたり、またはじっくり観察したりして、間違いなく毎日同じ時間に一人で現れるのは誰かを突き止めた。ときには誰かのブリーフケースから「日にっ刊かん予よ言げん者しゃ新しん聞ぶん」を失しっ敬けいする機会もあった。徐じょ々じょにざっとした地図やメモが貯たまり、いまそれが、ハーマイオニーの前に積み上げられていた。
「よーし」ロンがゆっくりと言った。「たとえば明日決行するとして……僕とハリーだけが行くべきだと思う」
「まあ、またそんなことを」ハーマイオニーが、ため息をついた。「そのことは、もう話がついていると思ったのに」
「ハーマイオニー、『透明マント』に隠れて入口の周りをうろうろすることと、今回のこれとは違うんだ」ロンは十日前の古新聞に指を突きつけた。「君は、尋じん問もんに出頭しゅっとうしなかったマグル生まれのリストに入っている」
「だけどあなたは、黒こく斑はん病びょうのせいで『隠かくれ穴あな』で死にかけているはずよ 誰か行かないほうがいい人がいるとすれば、それはハリーだわ。一万ガリオンの懸けん賞しょう金きんがハリーの首に懸かかっているのよ――」
「いいよ。僕はここに残る」ハリーが言った。「万が一、君たちがヴォルデモートをやっつけたら、知らせてくれる」
ロンとハーマイオニーが笑い出したとき、ハリーの額ひたいの傷きず痕あとに痛みが走った。ハリーの手がぱっとそこに飛んだが、ハーマイオニーの目が疑わしげに細められるのに気づき、目にかかる髪かみの毛を払う仕種しぐさをしてごまかそうとした。