「ウェー」
ハーマイオニーは道に溜たまった反吐を避よけて、ローブの裾すそを持ち上げた。
「この人にも『失しっ神しん呪じゅ文もん』をかけたほうが、汚きたなくなかったでしょうに」
「そうだな」
ロンは、管理部の魔法使いの鞄を持って「透とう明めいマント」から姿を現した。
「だけどさ、気絶したやつらが山積みになってたりしたら、もっと人目を引いたと思うぜ。それにしても、あいつ、仕事熱心なやつだったな。それじゃ、やつの髪の毛とポリ薬をくれよ」
二分もすると、ロンはあの反吐魔法使いと同じ背の低いイタチ顔になって、二人の前に現れた。鞄に折りたたまれて入っていた、濃のう紺こんのローブを着ている。
「あんなに仕事に行きたかったやつが、このローブを着てなかったのは変じゃないか まあいいか。裏うらのラベルを見ると、僕はレッジ・カターモールだ」
「じゃ、ここで待ってて」
ハーマイオニーが、「透明とうめいマント」に隠れたままのハリーに言った。
「あなた用の髪かみの毛を持って戻るから」
待たされたのは十分ほどだったが、「失しっ神しん」したマファルダを隠してある扉とびらの脇わきで、反へ吐どの飛び散った路地に一人でこそこそ隠れているハリーには、もっと長く感じられた。ロンとハーマイオニーが、やっと戻ってきた。
「誰だかわからないの」
黒いカールした髪を数本ハリーに渡しながら、ハーマイオニーが言った。
「とにかくこの人は、ひどい鼻血で家に帰ったわ かなり背が高かったから、もっと大きなローブが要いるわね……」
ハーマイオニーは、クリーチャーが洗ってくれた古いローブを一式取り出した。ハリーは薬を持って、着き替がえるために物もの陰かげに隠れた。
痛い変身が終わると、ハリーは一メートル八十センチ以上の背丈せたけになっていた。筋きん骨こつ隆りゅう々りゅうの両腕から判断すると、相当強そうな体つきだ。さらにひげ面づらだった。着替えたローブに「透明マント」とメガネを入れて、ハリーは二人のところに戻った。
「おったまげー、怖こわいぜ」ロンが言った。
ハリーはいまや、ずっと上からロンを見下ろしていた。
「マファルダのコインを一つ取ってちょうだい」ハーマイオニーがハリーに言った。「さあ、行きましょう。もう九時になるわ」
三人は一いっ緒しょに路地を出た。混み合った歩道を五十メートルほど歩くと、先せん端たんが矢尻やじりの形をした杭くいの建ち並ぶ、黒い手すりのついた階段が二つ並んでいて、片方の階段には男、もう片方には女と表示してあった。
「それじゃ、またあとで」
ハーマイオニーはピリピリしながらそう言うと、よぼよぼと「女」のほうの階段を下りていった。ハリーとロンは、自分たちと同じく変な服装の男たちに混じって階段を下りた。下は薄うす汚よごれた白黒タイルの、ごく一般的な公衆トイレのようだった。