「ハリー、うまく入れたのね」ハーマイオニーが、小声でハリーに話しかけた。
「いーや、ハリーはまだ雪せっ隠ちん詰づめだ」ロンが言った。
「冗談じょうだん言ってる場合じゃないわ……これ、ひどいと思わない」ハーマイオニーが、像をにらんでいるハリーに言った。「何に腰掛こしかけているか、見た」
よくよく見ると、装飾的な彫刻ちょうこくを施した玉座と見えたのは、折り重なった人間の姿だった。何百何千という裸はだかの男女や子どもが、どれもこれもかなり間の抜けた醜みにくい顔で、ねじ曲げられ押しつぶされながら、見事なローブを着た魔法使いと魔女の重みを支えていた。
「マグルたちよ」ハーマイオニーが囁ささやいた。「身分相応の場所にいるというわけね。さあ、始めましょう」
三人は、ホールの奥にある黄金の門に向かう魔法使いたちの流れに加わり、できるだけ気づかれないように、あたりを見回した。しかし、ドローレス・アンブリッジのあの目立つ姿は、どこにも見当たらなかった。三人は門をくぐり、少し小さめのホールに入った。そこには二十基きのエレベーターが並び、それぞれの金の格子こうしの前に行列ができていた。いちばん近い列に並んだとたん、声をかける者がいた。
「カターモール」
三人とも振ふり向いた。ハリーの胃袋がひっくり返った。ダンブルドアの死を目もく撃げきした死し喰くい人びとの一人が、大おお股またで近づいてくる。脇わきにいた魔ま法ほう省しょうの職員たちは、みな目を伏ふせて黙だまり込んだ。恐怖が波のように伝わるのを、ハリーは感じた。獣けだものがかった険けん悪あくな顔は、豪華ごうかな金糸きんしの縫ぬい取りのある、流れるようなローブといかにも不ふ釣つり合あいだった。エレベーターの周りに並んでいる誰かが、「おはよう、ヤックスリー」とへつらうような挨あい拶さつをしたが、ヤックスリーは無視した。
「魔法ビル管理部に、俺おれの部屋を何とかしろと言ったのだが、カターモール、まだ雨が降ふってるぞ」
ロンは、誰かが何か言ってくれないかとばかりにあたりを見回したが、誰もしゃべらない。
「雨が……あなたの部屋で それは――それはいけませんね」
ロンは、不安を隠すように笑い声を上げた。ヤックスリーは目をむいた。
「おかしいのか カターモール、え」
並んでいた魔女が二人、列を離はなれてあたふたとどこかに行った。
「いいえ」ロンが言った。「もちろん、そんなことは」
「俺はおまえの女房にょうぼの尋じん問もんに、下の階まで行くところだ。わかっているのか、カターモール まったく。下にいて、尋問を待つ女房の手を握にぎっているかと思えば、ここにいるとは驚いた。失敗だったと、もう女房を見捨てることにしたわけか そのほうが賢けん明めいだろう。次は純血じゅんけつと結婚することだな」
ハーマイオニーが小さく叫さけんだが、ヤックスリーにじろりと見られ、弱々しく咳せきをして顔を背そむけた。