「ああ、マファルダ」
ハーマイオニーに気づいたアンブリッジが言った。
「トラバースがあなたをよこしたのね」
「は――はい」ハーマイオニーの声が上ずった。
「結けっ構こう。あなたなら、十分役立ってくれるわ」
アンブリッジは、黒と金色のローブの魔法使いに話しかけた。
「大臣、これであの問題は解決ですわ。マファルダに記録係をやってもらえるなら、すぐにでも始められますわよ」
アンブリッジはクリップボードに目を通した。
「今日は十人ですわ。その中に魔ま法ほう省しょうの職員の妻が一人 チッチッチッ……ここまでとは。魔法省のお膝ひざ元もとで」
アンブリッジはエレベーターに乗り込み、ハーマイオニーの隣となりに立った。アンブリッジと大臣の会話を聞いていた二人の魔法使いも同じ行動を取った。
「マファルダ、私たちはまっすぐ下に行きます。必要なものは法ほう廷ていに全部ありますよ。おはよう、アルバート、降おりるんじゃないの」
「ああ、もちろんだ」ハリーは、ランコーンの低音で答えた。
ハリーが降りると、金の格子こうしがガチャンと閉まった。ちらりと振ふり返ると、背の高い魔法使いに挟はさまれたハーマイオニーの不安そうな顔が、ハーマイオニーの肩の高さにあるアンブリッジの髪かみのビロードのリボンと一緒いっしょに沈んでいき、見えなくなるところだった。
「ランコーン、何の用でここに来たんだ」
新魔法大臣が尋たずねた。黒い長髪ちょうはつとひげには白いものが混じり、庇ひさしのように突き出た額ひたいが小さく光る目に影を落としている。ハリーは、岩の下から外を覗のぞく蟹かにを思い浮かべた。
「ちょっと話したい人がいるんでね」ハリーはほんの一瞬いっしゅん迷った。「アーサー・ウィーズリーだ。一階にいると聞いたんだが」
「ああ」パイアス・シックネスが言った。「『問もん題だい分ぶん子し』と接触せっしょくしているところを捕まったか」
「いや」ハリーは喉のどがからからになった。「いいや、そういうことではない」
「そうか。まあ時間の問題だがな」シックネスが言った。「私に言わせれば、『血を裏切る者』は、『穢けがれた血ち』と同罪だ。それじゃぁ、ランコーン」
「ではまた、大臣」
ハリーは、ふかふかの絨毯じゅうたんを敷しいた廊下ろうかを堂々と歩き去るシックネスを、じっと見ていた。その姿が見えなくなるのを待って、着ている重い黒マントから「透とう明めいマント」を引っ張り出し、それを被かぶって反対方向に歩き出した。ランコーンの背丈せたけでは、大きな足を隠すために腰を屈かがめなければならなかった。