パンフレットの作業者たちは、まだ弱々しくポッポッと煙を吐はき続けている「おとり爆弾ばくだん」の周りに集まっていた。ハリーは、あの若い魔女の声をあとに、急いで廊下ろうかを歩き出した。
「『実験じっけん呪じゅ文もん委い員いん会かい』から、ここまで逃げてきたに違いないわ。あそこは、ほんとにだらしないんだから。ほら、あの毒アヒルのことを覚えてる」
エレベーターまで急いで戻りながら、ハリーはどういう選せん択たく肢しがありうるかを考えた。もともとロケットが魔ま法ほう省しょうに置いてある可能性は少なかったし、人目の多い法ほう廷ていにアンブリッジが座っている間は、魔法をかけてロケットの在あり処かを聞き出すことなど望むべくもない。いまは、見つかる前に魔ま法ほう省しょうから抜け出すことが第一だ。また出直せばいい。まずはロンを探す。それから二人で、ハーマイオニーを法廷ほうていから引っ張り出す算さん段だんをする。
上ってきたエレベーターは空からだった。ハリーは飛び乗って、エレベーターが下りはじめると同時に「透とう明めいマント」を脱ぬいだ。ガチャガチャと音を立てて二階で停止ていししたエレベーターに、なんと魔まのいいことに、ぐしょ濡ぬれのロンがお手上げだという目つきで乗り込んできた。
「お――おはよう」エレベーターが再び動き出すと、ロンがしどろもどろに言った。
「ロン、僕だよ、ハリーだ」
「ハリー おっどろき、君の姿を忘れてた――ハーマイオニーは、どうして一いっ緒しょじゃないんだ」
「アンブリッジと一緒に法廷に行かなきゃならなくなって、断れなくて、それで――」
しかし、ハリーが言い終える前にエレベーターがまた停止ていしし、ドアが開いて、ウィーズリー氏が、年配の魔女に話しかけながら入ってきた。金きん髪ぱつの魔女は、これでもかというほど逆毛さかげを立てた蟻あり塚づかのような頭だった。
「……ワカンダ、君の言うことはよくわかるが、私は残念ながら加わるわけには――」
ウィーズリー氏はハリーに気づいて、突然口を閉じた。ウィーズリーおじさんに、これほど憎しみを込めた目で見つめられるのは、変な気持だった。ドアが閉まり、四人を乗せたエレベーターは、再び下りはじめた。
「おや、おはよう、レッジ」
ロンのローブから、絶え間なく滴しずくの垂れる音がしているのに気づき、ウィーズリー氏が振ふり返った。
「奥さんが、今日尋じん問もんされるはずじゃなかったかね あー――いったいどうした どうしてそんなに、びしょ濡ぬれで」
「ヤックスリーの部屋に、雨が降ふっている」
ロンはウィーズリー氏の肩に向かって話しかけていた。まっすぐ目を合わせれば、父親に見抜かれることを恐れたに違いないと、ハリーは思った。
「止められなくて。それでバーニー――ピルズワース、とか言ったと思うけど、その人を呼んでこいと言われて――」
「そう、最近は雨降あめふりになる部屋が多い」ウィーズリー氏が言った。「『メテオロジンクス レカント 気象きしょう呪のろい崩くずし』を試したかね ブレッチリーには効きいたが」
「メテオロジンクス レカント」ロンが小声で言った。「いや、試していない。ありがとう、パ――じゃない、ありがとう、アーサー」