禿げかけの魔法使いの同僚どうりょうたちが騒ぎ出した。そのどさくさにまぎれて、ロンがカターモール夫人をつかみ、まだ開いている暖炉の中へと姿を消した。ヤックスリーは混乱した顔でハリーとパンチを食らった魔法使いを交互に見ていたが、そのとき本物のレッジ・カターモールが叫んだ。
「私の妻だ 私の妻と一いっ緒しょに行ったのは誰だ いったい、どうしたというんだ」
ハリーは、ヤックスリーが声のしたほうを振ふり向き、その野蛮やばんな顔に、真相がわかったぞ、という微かすかなしるしが表れるのを見た。
「来るんだ」
ハリーはハーマイオニーに向かって叫び、手をつかんで一緒に暖炉に飛び込んだ。ヤックスリーの呪のろいが、そのときハリーの頭上をかすめて飛んだ。二人は数秒間くるくる回転し、トイレの小部屋に吐き出された。ハリーがパッと戸を開けると、ロンは洗面台の脇わきに立って、まだカターモール夫人と揉もみ合っていた。
「レッジ、私にはわからないわ――」
「いいからもうやめて。僕は君の夫じゃない。君は家に帰らないといけないんだ」
ハリーたちの後ろの小部屋で音がした。ハリーが振り返ると、ヤックスリーが現れたところだった。
「行こう」叫ぶや否いなや、ハリーはハーマイオニーの手を握にぎり、ロンの腕をつかんでその場で回転した。
暗くら闇やみが三人を呑のみ込み、ハリーはゴムバンドで締しめつけられるような感覚を覚えた。しかし何かがおかしい……握にぎっているハーマイオニーの手が徐じょ々じょに離はなれていく……。
ハリーは窒ちっ息そくするのではないかと思った。息をすることもできず、何も見えない。ただロンの腕とハーマイオニーの指だけが実体のあるものだった。しかもその指がゆっくりと離れていく……。
そのときハリーの目に、グリモールド・プレイス十二番地の扉とびらと蛇へびの形のドア・ノッカーが見えた。しかしハリーが息を吸い込む前に、悲鳴ひめいが聞こえ、紫むらさきの閃せん光こうが走った。ハーマイオニーの手が、突然万まん力りきで締しめつけるようにハリーの手を握り、すべてがまた暗闇に戻った。