「気絶してるわ」
ハーマイオニーも青ざめていた。もうマファルダの顔には見えなかったが、髪かみにはまだところどころ白髪しらがが見える。
「ハリー、栓せんを開けて。私、手が震ふるえて」
ハリーは小さな瓶の栓をひねり、ハーマイオニーがそれを受け取って血の出ている傷口に三さん滴てき垂らした。緑がかった煙が上がり、それが消えたときには、ハリーの目に血が止まっているのが見えた。傷口は数日前の傷のようになり、肉がむき出しになっていた部分に新しい皮が張っている。
「わあ」ハリーは感心した。
「安全なやり方は、これだけなの」
ハーマイオニーはまだ震えていた。
「完全に元通りにする呪文じゅもんもあるけれど、試す勇気がなかったわ。やり方を間違えば、もっとひどくなるのが怖こわくて……ロンは、もうずいぶん出血してしまったんですもの……」
「ロンはどうしてけがしたんだろう つまり――」
頭をすっきりさせ、たったいま起こったことに筋道すじみちをつけようと、ハリーは頭を振ふった。
「僕たち、どうしてここにいるんだろう グリモールド・プレイスに戻るところだと思ったのに」
ハーマイオニーは深く息を吸った。泣き出しそうな顔だった。
「ハリー、私たち、もうあそこへは戻れないと思うわ」
「どうしてそんな――」
「『姿すがたくらまし』したとき、ヤックスリーが私をつかんだの。あんまり強いものだから、私、振りきれなくて、グリモールド・プレイスに着いたとき、あの人はまだくっついていた。だけどそのとき――そうね、ヤックスリーは扉とびらを見たに違いないわ。それで、私たちがそこで停止ていしすると思って、手を緩ゆるめたのよ。だからやっと振りきって、それで、私があなたたちをここに連れてきたの」
「だけど、そしたら、あいつはどこに 待てよ……まさか、グリモールド・プレイスにいるんじゃないだろうな あそこには、入れないだろう」
ハーマイオニーは、涙がこぼれそうな目でうなずいた。
「ハリー、入れると思うわ。私――私は『引ひき離はなしの呪のろい』でヤックスリーを振り離したの。でもそのときにはすでに、私があの人を『忠誠ちゅうせいの術じゅつ』の保ほ護ご圏けん内ないに入れてしまっていたのよ。ダンブルドアが亡くなってから、私たちも『秘密ひみつの守人もりびと』だったわ。だから私が、その秘密をヤックスリーに渡してしまったことになるでしょう」
ハリーは、ハーマイオニーの言うとおりだと思った。事実を欺あざむいてもしかたがない。大きな痛手だった。ヤックスリーがあの屋敷やしきに入れるなら、三人はもう戻ることはできない。いまのいまでさえ、ヤックスリーは他の死し喰くい人びとたちを「姿すがた現わし」させて、あそこに連れてきているかもしれない。あの屋敷は、たしかに暗くて圧あっ迫ぱく感かんはあったが、三人にとっては唯一ゆいいつの安全な避ひ難なん場ば所しょになっていた。それに、クリーチャーがあれほど幸せそうで親しくなったいまは、我が家のようなものだった。いまごろあの屋敷しもべ妖精ようせいは、ハリーやロンやハーマイオニーに食べてはもらえないステーキ・キドニー・パイをいそいそと作っているのだろうと思うと、ハリーの胸は痛んだ。それは食べられない無念さとは、まったく別の痛みだった。
ハリーは、ハーマイオニーの言うとおりだと思った。事実を欺あざむいてもしかたがない。大きな痛手だった。ヤックスリーがあの屋敷やしきに入れるなら、三人はもう戻ることはできない。いまのいまでさえ、ヤックスリーは他の死し喰くい人びとたちを「姿すがた現わし」させて、あそこに連れてきているかもしれない。あの屋敷は、たしかに暗くて圧あっ迫ぱく感かんはあったが、三人にとっては唯一ゆいいつの安全な避ひ難なん場ば所しょになっていた。それに、クリーチャーがあれほど幸せそうで親しくなったいまは、我が家のようなものだった。いまごろあの屋敷しもべ妖精ようせいは、ハリーやロンやハーマイオニーに食べてはもらえないステーキ・キドニー・パイをいそいそと作っているのだろうと思うと、ハリーの胸は痛んだ。それは食べられない無念さとは、まったく別の痛みだった。