「ハリー、ごめんなさい。本当にごめんなさい」
「バカ言うなよ。君のせいじゃない 誰かのせいだとしたら、僕のせいだ……」
ハリーはポケットに手を入れて、マッド‐アイの目玉を取り出した。ハーマイオニーは、怯おびえたように後退あとずさりした。
「アンブリッジのやつが、これを自分の部屋の扉とびらに嵌はめ込んで、職員を監視かんししていた。僕、そのままにしておけなかったんだ……でも、やつらが侵しん入にゅう者しゃに気づいたのは、これのせいだ」
ハーマイオニーが答える前に、ロンがうめいて目を開けた。顔色はまだ青く、顔は脂汗あぶらあせで光っていた。
「気分はどう」ハーマイオニーが囁ささやいた。
「めちゃ悪」
ロンがかすれ声で答え、けがをした腕の痛みで顔をしかめた。
「ここはどこ」
「クィディッチ・ワールドカップがあった森よ」
ハーマイオニーが言った。
「どこか囲まれたところで、保ほ護ごされているところがほしかったの。それでここが――」
「――最初に思いついたところだった」
ハリーが、あたりを見回しながら言葉を引き取った。林の中の空き地には、見たところ人の気配はない。しかしハリーは、ハーマイオニーが最初に思いついた場所に「姿現わし」した前回の出来事を、思い出さずにはいられなかった。あのとき死喰い人は、たった数分で三人を見つけた。あれは「開かい心しん術じゅつ」だったのだろうか ヴォルデモートか腹心ふくしんの部下が、いまこの瞬間しゅんかんにも、ハーマイオニーが二人を連れてきたこの場所を読み取っているだろうか
「移動したほうがいいと思うか」
ロンがハリーに問いかけた。ロンの表情から、ハリーはロンが自分と同じことを考えていると思った。
「わからないけど――」
ロンはまだ青ざめて、じっとりと汗ばんでいた。上半身を起こそうともせず、それだけの力がないように見えた。ロンを動かすとなると、相当厄やっ介かいだ。
「しばらく、ここにいよう」ハリーが言った。
ハーマイオニーはほっとしたような顔で、すぐに立ち上がった。
「どこに行くの」ロンが聞いた。
「ここにいるなら、周りに保ほ護ご呪じゅ文もんをかけないといけないわ」
ハーマイオニーは杖つえを上げて、ブツブツ呪文を唱となえながら、ハリーとロンの周りに大きく円を描くように歩きはじめた。ハリーの目には、周囲の空気に小さな乱れが生じたように見えた。ハーマイオニーが、この空き地を陽炎かげろうで覆おおったような感じだった。
「サルビオのろいを へクシアさけよ……プロテゴばんぜんの トタラムまもり ……レペロマグルを マグルタムよけよ ……マフリアーみみふさトぎ ……ハリー、テントを出してちょうだい……」
「テントって」
「バッグの中よ」
「バッ……あ、そうか」ハリーが言った。
こんどはわざわざ中を手探りしたりせず、最初から「呼よび寄よせ呪文じゅもん」を使った。テント布や張はり綱づな、ポールなどが一包ひとつつみとなった大きな塊かたまりが出てきた。猫の臭いがすることから、ハリーはこのテントが、クィディッチ・ワールドカップの夜に使ったものだと思った。