「カターモール一家は、どうなったかなぁ」
「運がよければ、逃げおおせたと思うわ」
ハーマイオニーが、慰なぐさめを求めるように熱いマグを握にぎりしめた。
「カターモールが機転きてんを利きかせれば、奥さんを『付添つきそい姿すがたくらまし』で運んで、いまごろは子どもたちと一緒いっしょに国外へ脱出しているはずよ。ハリーが奥さんにそうするように言ったわ」
「まったくさあ、僕、あの家族に逃げてほしいよ」
上半身を起こしていたロンが、枕まくらに寄り掛かりながら言った。紅茶が効きいたのか、ロンの顔に少し赤みが注さしてきた。
「だけど、あのレッジ・カターモールってやつ、あんまり機転が利くとは思えなかったな。カターモールだった僕に、みんながどんなふうに話しかけてきたかを考えるとさ。あぁ、あいつらうまくいくといいのに……僕たちのせいで、あの二人がアズカバン行きなんかになったら……」
ハリーはハーマイオニーに質問しようとした――カターモール夫人に杖つえがなかったことが、夫に『付添つきそい姿すがたくらまし』してもらう障害しょうがいになったかどうか――しかし、喉のどまで出かかったその質問は、ハーマイオニーを見て引っ込んでしまった。カターモール一家の運命をさかんに心配するロンを見つめるその表情が、まさに優しさそのものという感じで、ハリーは、まるでハーマイオニーがロンにキスしているところを見てしまったみたいに、どぎまぎしてしまったからだ。
「それで、手に入れたの」
ハリーは、自分もその場にいるのだということを思い出させる意味も込めて、尋たずねた。
「手に入れる――何を」
ハーマイオニーは、ちょっとドキッとしたように言った。
「何のためにこれだけのことをしたと思う ロケットだよ ロケットはどこ」
「手に入れたのか」
ロンは、枕まくらにもたせかけていた体を少し浮かせて叫さけんだ。
「誰も教えてくれなかったじゃないか なんだよ、ちょっと言ってくれたってよかったのに」
「あのね、私たち、死し喰くい人びとから逃れるのに必死だったんじゃなかったかしら」
ハーマイオニーが言った。
「はい、これ」
ハーマイオニーは、ローブのポケットからロケットを引っ張り出して、ロンに渡した。
鶏にわとりの卵ほどの大きさだ。キャンバス地の天井を通して入り込む散光さんこうの下で、小さな緑の石をたくさん嵌はめ込んだ「」の装そう飾しょく文も字じが、鈍にぶい光を放はなった。
「クリーチャーの手を離はなれてからあと、誰かが破壊はかいしたって可能性はないか」
ロンが期待顔で言った。
「つまりさ、それはまだ、たしかに分ぶん霊れい箱ばこか」
「そう思うわ」
ハーマイオニーが、ロンから引き取ったロケットをよく見ながら言った。
「もし魔法で破壊されていたら、何らかの徴しるしが残っているはずよ」
ハーマイオニーから渡されたロケットを、ハリーは手の中で裏返うらがえした。どこも損そこなわれていない、まったく手つかずの状態に見えた。ハリーは、日記帳がどんなにずたずたの残骸ざんがいになったか、ダンブルドアに破壊された分霊箱の指輪ゆびわの石が、どんなにパックリ割れていたかを思い出した。
「クリーチャーが言ったとおりだと思う」ハリーが言った。「破壊する前に、まずこれを開ける方法を考えないといけないんだ」