そう言いながらハリーは、自分がいま手にしているものが何なのか、この小さい金の蓋ふたの後ろに何が息づいているのかを、突然強く意識した。探し出すのにこれほど苦労したのに、ハリーはロケットを投げ捨てたいという激はげしい衝動しょうどうに駆かられた。気を取り直して、ハリーは指で蓋ふたをこじ開けようとした。それから、ハーマイオニーがレギュラスの部屋を開けるときに使った呪文じゅもんも試してみた。どちらもだめだった。ハリーはロケットを、ロンとハーマイオニーに戻した。二人ともそれぞれ試してみたが、ハリーと変わりのない結果で、開けられなかった。
「だけど、感じないか」
ロンがロケットを握にぎりしめ、声をひそめて言った。
「何を」
ロンは分ぶん霊れい箱ばこをハリーに渡した。しばらくして、ハリーはロンの言っていることがわかるような気がした。自分の血が、血管を通って脈打つのを感じているのか、それともロケットの中の、何か小さい金属の心臓のようなものの脈打ちを感じているのか
「これ、どうしましょう」
ハーマイオニーが問いかけた。
「破壊はかいする方法がわかるまで、安全にしまっておこう」
ハリーはそう答え、気が進まなかったが鎖くさりを自分の首に掛かけ、ロケットをローブの中に入れて外から見えないようにした。ロケットは、ハグリッドがくれた巾着きんちゃくと並んで、ハリーの胸の上に収まった。
「テントの外で、交互に見張りをしたほうがいいと思うよ」
ハリーは、ハーマイオニーにそう言いながら立ち上がって、伸びをした。
「それに、食べ物のことも考える必要があるな。君はじっとしているんだ」
起き上がろうとしてまた真っ青になったロンを、ハリーは厳きびしく制した。
ハーマイオニーがハリーの誕たん生日じょうびプレゼントにくれた「かくれん防ぼう止し器き」を慎重しんちょうにテント内のテーブルに置き、ハリーとハーマイオニーはその日一日中交代で見張りに立った。しかし、「かくれん防止器」は置かれたまま日がな一日音も立てず、動きもしなかった。ハーマイオニーが周囲にかけた保ほ護ご呪じゅ文もんやマグル避よけ呪文が効きいているせいか、それともこのあたりにわざわざ来る人がめったにいないせいか、時折やってくる小鳥やリス以外には、三人のいる空き地を訪れる者はなかった。夕方になっても変わりはなかった。
十時にハーマイオニーと交代するとき、ハリーは杖灯つえあかりを点つけて、閑散かんさんとしたあたりの光景に目を凝こらした。保護された空き地の上に切り取ったように見える星空を、コウモリたちが高々と横切って飛ぶのが見えた。
ハリーは空腹を感じ、頭が少しぼーっとした。夜にはグリモールド・プレイスに戻っているはずだったので、ハーマイオニーは魔法のバッグに何も食べ物を入れてこなかった。今夜の食事は、ハーマイオニーが近くの木々の間から集めてきた茸きのこを、キャンプ用のブリキ鍋なべで煮に込こんだものだけだった。ロンは二口食べて、吐はきそうな顔で皿を押しやった。ハリーは、ハーマイオニーの気持を傷つけないように、という思いだけで堪こらえた。