「ハリー」
ハリーはあえぎながら目を開けた。額ひたいがズキズキする。ハリーはテントに寄り掛かったまま眠りに落ち、ずるずると横に倒れて地面に大の字になっていた。見上げるとハーマイオニーの豊かな髪かみが、黒い木々の枝からわずかに見える夜空を覆おおっていた。
「夢だ」
ハリーは急いで体を起こし、にらみつけているハーマイオニーに、何でもないという顔をしてみせようとした。
「転うたた寝ねしたみたいだ。ごめんよ」
「傷痕きずあとだってことはわかってるわ 顔を見ればわかるわよ あなた、またヴォル――」
「その名前を言うな」
テントの奥から、ロンの怒った声が聞こえた。
「いいわよ」ハーマイオニーが言い返した。「それじゃ、『例のあの人』の心を覗のぞいていたでしょう」
「わざとやってるわけじゃない」ハリーが言った。「夢だったんだ ハーマイオニー、君なら、夢の中身を変えられるのか」
「あなたが『閉へい心しん術じゅつ』を学んでさえいたら――」
しかしハリーは、説教せっきょうされることには興味がなかった。いま見たことを話し合いたかった。
「あいつは、グレゴロビッチを見つけたよ、ハーマイオニー。それに、たぶん殺したと思う。だけど殺す前に、グレゴロビッチの心を読んだんだ。それで、僕、見たんだ――」
「あなたが居眠いねむりするほど疲れているなら、見張りを変わったほうがよさそうね」
ハーマイオニーが冷たく言った。
「交代時間が来るまで見張るよ」
「ダメよ。あなたは間違いなく疲れているわ。中に入って横になりなさい」
ハーマイオニーは、意地でも動かないという顔でテントの入口に座り込んだ。ハリーは腹が立ったが、喧嘩けんかはしたくなかったので入口をくぐって中に入った。
ロンは、まだ青い顔で二段ベッドの下から顔を突き出していた。ハリーはその上のベッドに登り、横になって天井の暗いキャンバス地を見上げた。しばらくするとロンが、入口にうずくまっているハーマイオニーに届かないくらいの低い声で、話しかけてきた。