「『例のあの人』は、何をしてた」
ハリーは細かいところまで思い出そうと、眉根まゆねを寄せて考えてから、暗闇くらやみに向かってヒソヒソと言った。
「あいつは、グレゴロビッチを見つけた。縛しばり上げて拷問ごうもんしていた」
「縛られてたら、グレゴロビッチは、どうやってあいつの新しい杖つえを作るって言うんだ」
「さあね……変だよな」
ハリーは目を閉じて、見たこと聞いたことを全部反芻はんすうした。思い出せば出すほど、意味をなさなくなる……ヴォルデモートは、ハリーの杖のことを一言も言わなかったし、杖の芯しんが双子ふたごであることにも触ふれなかった。ハリーの杖を打ち負かすような新しい、より強力な杖を作れとも言わなかった……。
「グレゴロビッチの、何かがほしかったんだ」ハリーは、目をしっかりと閉じたまま言った。「あいつはそれを渡せと言ったけど、グレゴロビッチは、もう盗まれてしまったと言っていた……それから……それから……」
ハリーは、自分がヴォルデモートになってグレゴロビッチの目の中を走り抜け、その記憶きおくに入り込んだ様子を思い出した。
「あいつはグレゴロビッチの心を読んだ。そして僕は、誰だか若い男が出窓の縁へりに乗って、グレゴロビッチに呪のろいを浴あびせてから、飛び降おりて姿を消すところを見た。あの男が盗んだんだ。『例のあの人』がほしがっていた、何かを盗んだ。それに僕……あの男をどこかで見たことがあると思う……」
ハリーは、高笑いしていた若者の顔を、もう一度よく見たいと思った。盗まれたのは何年も前だと、グレゴロビッチは言った。それなのに、どうしてあの若い盗っ人の顔に見覚えがあるのだろう
周囲の森のざわめきは、テントの中ではくぐもって聞こえる。ハリーの耳には、ロンの息遣いきづかいしか聞こえなかった。しばらくして、ロンが小声で言った。
「その盗っ人の持っていたもの、見えなかったのか」
「うん……きっと、小さなものだったんだ」
「ハリー」
ロンが体の向きを変え、ベッドの下段の板が軋きしんだ。
「ハリー、『例のあの人』は、分ぶん霊れい箱ばこにする何かを探しているんだとは思わないか」
「わからないよ」ハリーは考え込んだ。「そうかもしれない。だけどもう一つ作るのは、あいつにとって危険じゃないか ハーマイオニーが、あいつはもう、自分の魂たましいを限界まで追いつめたって言っただろう」
「ああ、だけど、あいつはそれを知らないかも」
「うん……そうかもな」ハリーが言った。